EVENT 2019年7月12日

声を上げやすい社会にするためメディアは何をすべきなのか 白熱のシンポジウム実録

 五月祭で本郷キャンパスが盛り上がる5月18日、祭りの喧騒から離れた情報学環福武ホール地下2階の福武ラーニングホールで、「わたしが声を上げるとき」をテーマにしたシンポジウムが開催された。主催は昨年学内外で議論を巻き起こした姫野カオルコ『彼女は頭が悪いから』ブックトークなどを開催してきた「メディア表現とダイバーシティを抜本的に検討する会(MeDi)」。声を上げにくい社会で声を上げることを可能にするにはどうしていけばいいのか、登壇者たちの示唆に富んだ議論をお伝えしたい。

 

(取材・撮影 高橋祐貴)

 

 

登壇者(五十音順)

ウ ナリ(株式会社キュカ 代表取締役)

小島慶子(エッセイスト)

武田砂鉄(ライター)

田中東子(大妻女子大学 教授)

山本和奈(Voice Up Japan)

 

司会

山本恵子(NHK国際放送局 記者)

 

声を上げられるようになった1年

 

 今回のシンポジウムは、昨今の#MeToo運動の日本での広がりやジャーナリストの伊藤詩織さんへのバッシングなどを受けて、日本社会ではどうしたら人々が自由に声を上げることができるようになるかを話し合う主旨で開催された。

 

 会の冒頭、シンポジウムのテーマの提案者でもあるエッセイストの小島慶子さんが、声の上げやすさについて近年世の中で起きた変化を振り返った。2017年10月の伊藤詩織さんの手記『Black Box』出版やブロガーのはあちゅうさんのセクハラ被害告白、18年4月の福田淳一財務事務次官(当時)によるセクハラ問題の発覚を経て、徐々に世の中の流れが変わってきたと指摘。例として18年12月に『週刊SPA!』に掲載された「ヤレる女子大生ランキング」に対して批判の声を上げた、登壇者でもある大学生の山本和奈さん(国際基督教大学)の活動が世間から広く支持されたことを挙げた。

 

 

 実際に『週刊SPA!』編集部との対話を行い、SPA!誌上で性的合意についての特集が組まれるところまでこぎ着けた山本さんの活動を評価し「伊藤詩織さんの告発からわずか1年の間に世の中が大きく変わってきている」と語る小島さん。「ハラスメントが『普通』のことじゃなくて声を上げるべき対象なんだと気付いた人々が声を上げてきたことが変化の大きな理由ではないか」と今回のテーマの背景を説明した。

 

 小島さんの出版した対談集『さよなら! ハラスメント』(晶文社)にも登場する、ライターの武田砂鉄さんは、アイドルグループとメディアの関係の問題から口火を切った。男性2人から暴行を受けたNGT48のメンバー・山口真帆さんがステージ上で「お騒がせして申し訳ありませんでした」と謝罪させられた件に触れて「暴行を受けた側が謝罪するなんて男女関係なく明らかにおかしいと分かるはず」と憤る武田さん。AKB48の卒業メンバーに対し「恋愛解禁」という修飾を自然と使う、卒業メンバーの結婚を伝えるニュースで妊娠の有無を付け加えるといったメディアの姿勢について問題提起した。

 

 『週刊SPA!』の件で声を上げ、現在は声を上げる人々を支援しジェンダー平等を目指す一般社団法人Voice Up Japanを運営する山本和奈さん本人も登壇。女性の成功者がさげすまれ男性の成功者は羨望(せんぼう)される世の中や、本来女子の大学生を指すだけのはずの「女子大生」という言葉が若い女性の象徴としてある意味でブランド化(idolize)されていることへの疑問を唱えた。想像力を働かせれば自分の大学が取り上げられていなくても今回のような記事に当事者意識を持てるはずだとする山本さん。問題を起こした相手に謝罪を求めるだけではなく、相手の立場に立ってものごとを考え、対話を行うことも重要だという。実際にSPA!のケースでも、SPA!編集部内の特集に対する疑問の声が反映されなかった経緯を聞き、ジェンダー不平等以上に「出る杭(くい)は打たれる」日本社会の空気が今回の問題につながっていたと気付いた。この気付きがVoice Up Japanの立ち上げにつながったという。

 

 

 ネット上で悩みを共有できるサービス「QCCCA(キュカ)」を立ち上げたウ ナリさんは、もともとヤフーの日本法人で「Yahoo!知恵袋」を立ち上げたエンジニア。ヤフーでの仕事を通じ自分がつくったものが人々にさまざまに活用される様を目の当たりにして、テクノロジーの可能性に気付いたという。そんなウさんがキュカをつくったきっかけは、ヤフーで部長になって初めて受けた相談内容がひどいセクハラについてだったこと。相談してきた女性社員は、それ以前にも周囲の同僚に相談を重ねていたが、「それは大変だね」と言われるだけで何も解決しなかったのだという。大きな会社で声を上げることの難しさを実感したウさん。「悩んでる人に一番必要なのは寄り添ってくれる人」だと考え、寄り添う人が最初から集まっているオンライン上のコミュニティーをキュカで実現した。

 

 

 SPA!の「ヤレる!女子大生ランキング」にランクインさせられていた大妻女子大の田中東子教授は報道を見た当時のショックを振り返る。特集に対して山本さんたちが声を上げたことについて学生たちが感じたことを聞いたところ、記事の内容に対する悔しさを訴える声、声を上げてくれた他の大学の学生に対する感謝の声、そして声を上げることに対する恐怖を吐露する声の3通りの反応があったという。特に一つ目の反応については「自分たちは常にJDという記号を通じて『ヤレる女』扱いを飲み会やバイトなどの場でされてきた」というコメントが付随して見られた。これら学生たちへの聞き取りを通じて、田中教授は「さらに傷付けられることを恐れ、声を上げないことが女性たちにとって消極的ながら身を守るための戦略となっている」と現状を分析。「支援者が声を上げることの重要性」を話し合いたいとした。

 

自分自身をエンパワーしていこう

 

 シンポジウムの後半は、前半の話を聞いての会場からの質問を踏まえたパネルディスカッションに。どうすれば社会に対して声を上げられるのかという問いを受け、山本さんは「現状声を上げる若者が少ないのは、特に彼らの生活に余裕がないからだ」と指摘。現在の競争社会はいわば椅子取りゲームで、声を上げたせいで椅子を手放してしまうことへの恐怖心が、声を上げることを妨げているとする山本さん。出る杭は打たれるどころか抜かれてしまうというイメージが若者を「目をつむる方が簡単」という方向に誘導しているという。その上で声を上げるときには、必ずバッシングがある一方で必ず賛同する声も上がるため、意識的に応援の声に耳を傾けることが心の余裕につながると語った。

 

 

 声の上げ方について小島さんは、セクハラや性暴力の問題は「男VS女」の問題ではないとし、対談集『さよなら! ハラスメント』の中で精神保健福祉士の斉藤章佳さんが「日本は『男尊女卑依存症社会』だ」と述べたことを紹介。「男尊女卑依存症社会」とは、辛いことがあったときにお酒に逃げるアルコール依存症のように、抑圧されている現状を肯定するために男女が共に「男尊女卑」という社会構造にすがって「しょうがない」と思おうとする状態を示す言葉だ。男尊女卑から皆で解放されることを目指せば、男女が分断されずに社会をより良い方向に変えていけるはずだという。

 

 武田さんは「男もつらい」という言説に対し、「『男もつらい』と言った後で4、5時間きちんとこの社会について議論するなら別だが、現状この文言は議論を終わらせるための装置として機能してしまっている」と指摘。山本さんが社会の制約の枠に無理やり自分を押し込めて生きる人々を「クッキーの型にはまる人」と例えたのを受け「自分もこんなつらい思いをしている、と『俺のクッキー型自慢』をする男が多すぎる」と嘆いた。これに対し小島さんは「『俺もつらい』と言いたくなるのは、自分のつらさを誰にも聞いてもらえてないからではないか」と指摘した。

 

 

 SPA!編集部にも知り合いがいるという武田さん。SPA!では「大企業から独立して事業を始めたが失敗した」というような「転落人生」「絶望人生」と銘打った記事がとても人気を博すると聞いたという。その理由は「おそらく読者の大半は企業に毎日我慢して通っている人だからだそうです」。クッキー型にはまりながら生きている人が、クッキー型からはみ出そうとして失敗した人を見て「やっぱりクッキー型っていいじゃん」と安心する構図があるという。武田さんは「こうしたビジネスが成り立つ病的な構図を変えていかなければならないが、なかなか難しいだろう」と述べた。

 

 話題はメディアの問題の扱い方にも。「中立公正」というのは本来成立し得ないのに、未だに両論併記に終始して問題の焦点をぼやけさせてしまう報道の在り方や、本来問題解決のためには報道のしつこさが必要なのに、社会の関心の薄まりに合わせて報道をうやむやのまま終わらせてしまうメディアの姿勢に批判の声が上がった。

 

 会の終盤、山本さんは「個人的に(社会を良くするための)鍵は『自己肯定感』だと思う」と主張。今の日本社会は自分の価値を他人からの評価で決めるようになっていると指摘した。「例えば小さい頃から(女性)雑誌を読んでいると、書いてあるのは『モテる方法』『好かれる方法』ばかり。社会にエンパワーメントの視点が欠けているのはメディアの責任も大きいと思います」。自己肯定感のある人が社会に対して声を上げることを応援するメディアが出てくれば、声の上げやすさも変わる。「個々人が自分自身をエンパワーできる環境をつくることが必要だ」と締めくくった。

 社会における声の上げやすさとメディアの報道姿勢の問題を扱った今回のシンポジウム。そこで描き出されたのは「声の上げにくさ」がメディアによって再生産され、抑圧される人々は我慢によって苦痛を乗り切ろうとする日本社会の問題だ。会の最終盤、小島さんが「人々が声を上げるとき、聞く人が必要になる。メディアはしゃべるのが仕事なのではなく、聞くのが仕事だよ」と述べた。抑圧の構造に加担するのではなく、声を上げる人々の言葉を真摯に聞いて、それを社会に発信する姿勢がこれからのメディアに求められる在り方だろう。

 

 東大生を扱うテレビ番組も増えた今、メディアにおけるidolizeは東大生とっても身近な問題だ。何かの枠に当てはめようとする社会の圧力に反発する気持ちがあるのであれば、そこに反対の声を上げてもいい。多くの東大生は、自分自身の感覚を一歩外に広げてみれば、たとえ自分が当事者でなくとも、さまざまなマイノリティーの人々が声を上げる状況に共感できるはずだ。

 

 普段からメディアが再生産するイメージを不信の目で見つめ、おかしいと思ったら声を上げる。一人一人がそうした姿勢を持つことが、やがて社会全体を変える大きなうねりとなるだろう。

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