文化

2019年2月1日

麹菌研究者と東大卒味噌煮込みうどん店主に聞く 日本人に欠かせない味噌の魅力

 味噌汁、味噌カツ、味噌煮……。味噌は日本人と切っても切り離せない食品だ。しかし、身近な存在であるものの、その種類の多様性や健康面のメリットについて知り尽くしている人は少ないだろう。味噌を扱う人たちに話を聞き、味わい深い味噌の世界をのぞいてみよう。

(取材・岡田康佑)

 

歴史の中で個性を熟成

 

北本勝特任(きたもと・かつひこ) 教授(日本薬科大学)
 72年農学部卒。博士。農学生命科学研農学究科教授などを経て16年より現職。専門は酵母や麹菌の分子細胞生物学。

 

 味噌は日本を代表する調味料の一つだ。発酵食品に詳しい北本勝ひこ特任教授(日本薬科大学)によると「平安時代以降、日本の僧侶が中国の技術や文化を学ぶ中で一緒に持ち帰った『穀醤(こくびしお)』という大豆の発酵食品が味噌の源流だと考えられています」。

 

 ただし、穀醤は塩辛い液状の調味料であり、日本人のイメージするペースト状の味噌とは明らかに違う。「穀醤の発酵を途中でやめたもの、すなわち『未』だ『醤』にならざるものが『未醤(みしょう)→ 味噌(みそ)』に変化したという説もありますが、正確には分かっていません」。一方、発酵の技術は日本独自でずっと前から発達していた。「縄文時代にはすでに食物を塩蔵することにより発酵させる技術があったようです。味噌は日本古来の発酵技術と中国の発酵食品が複合して生まれたとも考えられます」

 

 味噌の発酵にはカビの一種である麹こうじ菌の他、酵母、乳酸菌が関わる。米の上で麹菌を繁殖させた米麹を使って作ると米味噌、豆麹なら豆味噌といった具合に、麹に使う穀類によって味噌の種類が変化する。

 

 種類分けは名称の問題だけではなく、使う麹によって発酵の進行速度が異なる。例えば米麹は酵素活性が高く、米のでんぷんがたくさん分解されるので、一般的に米味噌はブドウ糖が多く含まれる甘い味噌になる。米麹を使う米味噌は2、3カ月ほどの熟成で食べ頃になる一方、豆味噌は熟成に2年ほどかかるという。「仕込み時は塩味の強い味噌も、熟成により菌が作り出すブドウ糖の甘みや乳酸の酸味が増してまろやかになります。豆味噌はもともと含まれるでんぷんが少なく、長期間熟成することにより独特のうま味が出ます」。長く熟成するほど色が濃くなるため、甘い米味噌は白味噌に、辛い豆味噌は赤味噌になる。

 

 味や見た目までさまざまな味噌だが、その好みには地域性がある(図)。東海地方では主に豆味噌が作られているが、その他の地域では米味噌が主流だ。「中国の醤は大豆が主原料なので、多くの地域で中国伝来の醤が『日本化』したと言えますね」 地域性が生まれた歴史的背景もさまざまだ。例えば九州では麦味噌が主流だが「かつて九州では米が貴重だったので、麦で代用していたと考えられます」。ローカルに見ると珍しい種類の味噌も。「米味噌なのに色が濃く辛い仙台味噌や、色は薄いのに辛い信州味噌など、いろいろな種類があって面白いですね。どんな歴史的背景があったとしても、結局その味噌が今日のその地域の人たちに最も気に入られているわけです」

 味噌は健康的な食品としても有名だが、一体どのような効果があるのだろうか。「第一に、でんぷんやタンパク質がすでに麹菌によって分解されているので、アミノ酸、ミネラル、ビタミンといった栄養素を効率良く摂取できます」。加えて味噌には麹菌、酵母、乳酸菌などの菌体が含まれるので、予防接種のワクチンと同じような原理で腸内の免疫が活性化する。「少量の食中毒菌を摂取してしまっても撃退できる可能性があります」。ただし味噌は食塩も多く含む。取り過ぎには注意すべきだ。

 

本郷で新感覚の味に舌鼓

 

 東京メトロ本郷三丁目駅から徒歩2分ほど、裏道を行ったところにある「味噌煮込罠(みそにこみん)」は、東大出身の店主岡田望さんが経営する味噌煮込みうどん店だ。岡田さんは東大卒業後、医学部附属病院に看護師として勤めたものの「新しいことがしてみたくなってやめてしまいました」。出身の愛知県では味噌グルメがたくさんあるものの、東京にはあまりなく「それならいっそ自分で作ってしまおうかと思って味噌煮込みうどん店を始めました」。

 

店主の岡田望さん

 

 店で使う味噌には岡田さんのこだわりがある。「コクや酸味の強い『まるや八丁味噌』の赤味噌、甘い清洲の白味噌、そして実家の近くで個人経営をしている味噌屋の、塩気が強い赤味噌の3種類を東京に取り寄せてブレンドしています」。1種類のみでは引き出せない個性豊かな味わいになるそうだ。さらに、3種類の味噌は全て愛知の味噌を取り寄せて使っている。「味噌は地域によってそれぞれ違った良さがあり、愛知の味噌は煮込むとうまくなります。他の味噌も試しましたが、代わりは務まりませんでした(笑)」

 

 メニューには変わり種もちらほら。トマトやチーズを一緒に煮込んだ「イタリアン味噌煮込みうどん」や、味噌とカレーがミックスされた「インディアン味噌煮込みうどん」まである。一見驚くようなメニューだが、実はどれも岡田さんが考え抜いた組み合わせ。「味噌は発酵食品なので、同じ発酵食品のチーズと相性がいいです。トマトのようなうま味の強い食材は煮込むとうまいですし、カレーはそもそも煮込み料理なのでもちろん合います。まだまだ思い付きそうです(笑)」

 

うま味の強いトマト、発酵食品のチーズを組み合わせたイタリアン味噌煮込みうどん

 

 岡田さんは味噌を「日本国民に欠かせない食品」だと語る。「例えば味噌汁は日本食の原点ですよね。朝飲めばシャキッとするし、夜家に帰って飲めばほっとする。なくてはならない存在だと思います」

 

 おいしく健康に良い上、地域によっていろいろなバリエーションまで楽しめる味噌。あなたのお気に入りはどんな味噌ですか?

 

洋風料理への応用はいかが?

 

 味噌が活躍する舞台は日本食に限られない。東大卒の食文化研究家、スギアカツキさんに、味噌の「和」と意外な「洋」を折衷してもらった。

 

 味噌の新たな魅力を楽しむべく、洋食メニュー「グラタン」を大胆にアレンジしました。主役となる具材は、ジューシーな鶏もも肉と冬野菜の白菜。これらを味噌風味のホワイトソースとチーズで包み込み、こんがり焼き上げましょう。ちなみに、味噌とチーズは同じ発酵食品で、相性抜群。合わせることで「うま味の相乗効果」が期待できます。白菜の水分が程よく溶け出したスープ感も乙な味。

 

 優れた存在は、必ずや世界で輝く。味噌も人も同じですから、どうぞ皆さんも味噌に負けず、世界で自由に羽ばたいてくださいね。


この記事は、2019年1月15日号に掲載した記事の転載です。本紙では、他にもオリジナルの記事を掲載しています。

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