教養

2020年12月25日

【留学】垣間見える社会の断片 スペイン人一家と過ごしたクリスマス

 ¡Feliz Navidad!(スペイン語で 「メリークリスマス!」)早いもので、今年もクリスマスシーズンがやってきた。しかし、新型コロナウイルスにより残念ながら今年は家族一同が集まっての賑やかな年末年始は迎えられそうもない。そこで、去年留学先のマドリードでお邪魔したスペイン人一家のクリスマス会の様子をお伝えし、暖かな家族団欒のひとときを想像で感じていただきたい。また、伝統と現代の間で変わりつつあるスペイン社会の小さな断片を感じ取っていただければ幸いである。

三木理佐さん(教養学部4年)による寄稿です。

 

マドリード中心部Puerta del Sol(プエルタ・デル・ソル)のツリー

 

 2019年9月から2020年3月まで、私はスペインのマドリード自治大学に約7ヶ月、交換留学をさせていただいた。今回の記事で取り上げる12月の終盤ともなると、友人は実家に帰るか旅行に行ってしまう。気候の方も、夏の暑さが嘘だったかのように冷たい雨が降り、風が吹き荒ぶ。そんな中でぽつんと寮に1人。そんな私のような留学生が発生するのを見越してか、マドリード自治大学の留学生支援コミュニティが、自治大生と留学生が一緒にクリスマスを過ごせるように両者を仲介するサービスを行なっていた。無論、迷わず応募した。

 

 来たる12月25日。昼3時頃に、マッチングしたSoraya(ソラヤ)さんという女子生徒と待ち合わせをし、きっかり1時間遅れで彼女は到着。人の良さそうな笑顔と溌剌とした雰囲気が素敵な人で、初めてのお宅訪問に緊張していた心が和らいだ。会場は彼女の伯父にあたる方のマンションで、Casa de Campo(カサ・デ・カンポ)という広大な緑地帯の側の、ちょっとした高級住宅地にある。待ち合わせ場所から10分ほど歩き、お宅の可愛らしいリースが掛かったドアを開けると、¡Hola!の応酬とともにホストの伯父一家から盛大なハグで歓迎を受ける。奥のキッチンから漂うご馳走の香りに早くもお腹をすかせながら、手土産のボンボンショコラを伯母さんに手渡す。料理はホスト一家の伯母さんが主体で作り、あとは参加者が持ち寄る形だ。家の中は綺麗に飾り付けられており、玄関には横1mほどの台の上にBelén(ベレン、スペイン語で「ベツレヘム」)と呼ばれるイエス誕生を象った人形飾りが鎮座している。これが非常に凝った作りで、水車や川のジオラマには本物の水が流れる仕様になっている。特に子供たちは興味津々といった様子だった。集まった参加者は3、4家族計15人程度だ。皆少しおめかしをしてきた様子で、特にSorayaさんのいとこの小学生姉妹は、淡い色の可愛らしいワンピースとカーディガンを身につけて皆のパーティー気分を盛り上げてくれる。お転婆の本人たちはお構いなしに遊びまわっていたが。

 

スペイン南部の街Córdoba(コルドバ)で見つけたBelén

 

 18時頃から、大人、子供+母親、若者の3つのテーブルにまとまって着席し、会が始まる。開会にあたり、伯父さんの短い説教と、聖書の一編の朗読を厳かな面持ちで聞いた後、食事と賑やかな会話が始まる。その喧騒にまぎれて、Sorayaさんはぼそっと「私はそんなに信じてないけどね」と一言。若者の宗教離れが進んでいると言われるスペインの現状を実感する瞬間だ。

 

 煮込み肉、レンズ豆のスープ、殻つきエビのボイル、といった具合に次々と出てくるご馳走を皆で取り分けながら、高速で様々なテーマのお喋りが展開されていく(スペイン人は中南米出身者と比べて非常に早口の人が多い印象がある)。どんな話題が繰り広げられているのかと思えば、若者テーブルでは移民問題の議論が白熱していた。 一方では移民はただでさえ少ない仕事を奪うので、これ以上増やさないために不寛容政策をとるべきだという意見と、他方で移民なしではスペイン経済は立ち行かなくなるので引き続き寛容政策をとるべきだという意見が真っ向から対立し、大いに議論が盛り上がっていた。パーティーらしくない議題で盛り上がっている若者たちに対し、伯父さんが「クリスマスというのは平和の祝祭だ」と言って政治的議論をやめるように注意していたが、若者たちはお構いなし、といった様子だった。

 

 ご馳走と早口の会話で満腹になったところで、最後の締めは歌唱大会。小学生姉妹は学校で習ったお歌を2人で歌い、大人たちはタンバリンや鈴を鳴らして盛り上げる。他方、大人たちは肩を組んで、日本では聞きなれないクリスマスソングを歌っている。スペインでは、「ジングルベル」や「きよしこの夜」などの一般的なクリスマスキャロルに加え、Villancicos(ビジャンシーコス)と呼ばれる、スペイン南部アンダルシア地方風のクリスマスソングが多く存在する。その歌詞はとても庶民的で、例えば、Los Peces en el Río(スペイン語で「川の魚たち」)という曲は 、聖母マリアが洗濯をしている川で泳ぐ魚の歌だ。そんな歌詞を、フラメンコに代表されるような「スペインっぽい」哀愁を帯びたメロディが運ぶ。皆が一緒になって歌い、笑い、クリスマスの夜は更けていった。

 

◇ 

 

 さて、スペインのある一家のクリスマスはいかがだっただろうか。会に参加したことで、スペインが直面する変化の断片を見聞きすることができたように思う。カトリックの伝統行事としてのクリスマスは、若者の宗教離れによってどのように変わっていくのか。スペインは流入する移民に対してどのように折り合いをつけていくのか。答えは一つではないし、議論は尽きない。ただ今は、再び家族団欒のひとときが私たちのもとに帰ってくるのを待ち望みながら、今年なりのクリスマスを楽しみたいものだ。

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