インタビュー

2017年7月3日

「法外」を恐れるな 社会学者・宮台真司教授インタビュー

 社会学の研究者として、サブカルチャー(サブカル)から日本の将来まで独自の視点から発信を続けている宮台真司教授(首都大学東京)。宮台教授の大学院時代や現在の研究について話を聞いた。

(取材・分部麻里 撮影・小原寛士)

 

 

非凡な仮説を立てる

 

――大学院に進学したきっかけは

 恋人がうつ病で寝込み、看病で就職活動を諦めた。「世直し」への思いが強かったから院ではそのための思考を学ぶことにした。

 

――「世直し」とは具体的に何を指すのでしょうか

 「法化への抗(あらが)い」だ。冗談じゃなく法は破るためにある。人類学の教養だ。祝祭や性愛を含め、法外のシンクロで仲間や絆を確かめる。昨今は法外にビビるヘタレが、法外を一斉にバッシングして疑似仲間を醸成する。あいつは仲間じゃないと指さすヘイト現象だ。法外を恐れ、祭りで踊れず、性的に退却する。法を守れば幸せになると妄信する。カール・シュミットが言ったように仲間や絆あっての法。周囲に仲間や絆がないなら法を守る必要はない。ならば法外を取り戻せ。思想史の教養では、社会が良くなれば人か幸せになると考える主知主義が左。社会が良くなっても幸せになれないと考える主意主義が右。主知主義者がもたらした法化の副作用がネトウヨやオルタナ右翼。政治学の教養だ。

 

――院生時代の過ごし方は

 院では、周囲が社会を知らないこと、学問を知らないことに驚いた。「社会を知らないが社会学を知ってる」「哲学も政治学も経済学も知らないが社会学を知ってる」って変。僕は学問水準を上げようと、年3本論文を書いて戦後5人目の東大社会学博士号を取った。でも違和感が消えず、仲間と起業したマーケットリサーチ会社の取締役を務めた。企業相手の調査データの研究目的での利用契約をし、予算数千万円の大規模調査を重ねた。理科系の科研費重点研究にも混ざって予算一千万円を得た。当時文科系の科研費は三百万が上限。本気で研究したいなら工夫すれば予算は得られるし、アカデミックポストも不要だと20代で学んだ。

 

――大学の研究者を目指したきっかけは

 目指していない。大学院修了後はマーケットリサーチ会社を使って研究しようと考えた。好き勝手して「産学協同」を批判されてもいたから、アカデミックポストは望めなかった。ところが博士課程に入ったら吉田民人教授(当時)に「君は数理が得意だから、騙されたと思って3年数理をやればポストが得られる。好きなことは封印!」と。それで年3本の論文を書いて27歳で東大助手(現・助教)になり、29歳の『権力の予期理論』で博士号を得て、30歳で東京外国語大学の専任講師。これで好きな研究ができるとサブカルや性愛や宗教の研究を進めて32歳で『サブカルチャー神話解体』を出し、翌年に東京都立大学(当時)に転任した。

 

――大学院時代の経験で今に生きていることは

 仮説を立てる重要性に気付いた。社会学者ロバート・マートンによれば、社会調査は凡庸な仮説にエビデンスを見つける営みではない。通説で説明できないデータを見つけ、それを説明する仮説を立てる。でも仮説構築は概念的作業だから才能が問われる。だから大学院生が増えると「凡庸な仮説にエビデンスを見つける営み」が蔓延(まんえん)する。世界的に「エビデンス厨」が増えたのは研究者の卵が増え「民主化」したからだ。

 

意志次第で変われる

 

――現在は日本の将来から男女の性愛まで、幅広い研究テーマに取り組んでいます

 手広くやっていると言われるが一つしかやっていない。「法を守れば良い社会になって幸せになれる」という勘違いを訂(ただ)して「世直し」する。例えば最近ならSNSの承認ボタンを押してもらいたがる若者が気になる。それじゃ到底「法外の回復」は望めない。祝祭と性愛が消え、鬱屈した輩やからがヘイトする。「コミュニケーションの自動機械化」も気になる。ラインでスタンプを送り合う「恋人たち」。名前を隠せば誰が誰に送ったか分からない。宮台ゼミのライングループはスタンプ禁止だ。言葉で自分を伝える訓練のため。院生の表現力がめきめき上がっている。

 

――就職と大学院進学で悩む学生も多いと思います

 就職か院進かで悩むようじゃ駄目。適職幻想を捨てる。意志があれば自分は変わる。重要なのは「どんな人間になりたいか」という意志。同じポストにあっても意志次第で営みは激変する。僕の活動は大学院生や研究者だったからできたんじゃない。お話ししたことで分かるはず。経験値の低い20歳の若造がどうして「自分が分かる」んだ。「自分に合うか否かじゃなく、自分が何をやりたいか」で将来を決める。やりたいことがないなら悩むだけ無駄。

 

――大学院進学を志望する学生にメッセージを

 自分にとって「知りたい、訴えたい、訂したい」ものが何かを認識してほしい。そういうものがある人にとって大学院は「自由に何でもできる環境」だ。研究費が足りない? それがどうした。僕らが会社を興して研究を進めたように何でもできる。「やりたいこと」を見つけて何でも実現させていってほしい。

 

宮台 真司(みやだい・しんじ)教授 (首都大学東京)

87年社会学研究科(当時)単位取得満期退学。社会学博士。東大助手(現・助教)や東京外国語大学専任講師を経て07年より現職。著書に『14歳からの社会学』(世界文化社)、『正義から享楽へ』(垣内出版)など。近年は「マル激・トーク・オン・ディマンド」などインターネット番組を中心に意見発信を行っている。


この記事は、2017年6月20日号に掲載した記事を再編集したものです。本紙では、他にもオリジナルの記事を掲載しています。

 

 

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