INTERVIEW / PROFESSOR 2017年8月9日

【東大教員から高校生へ】水島昇教授インタビュー 研究者とはどんな存在か

 8月2日と3日に東大でオープンキャンパスが開催された。これを機に受験勉強に一層の熱を入れようと決意した高校生も多いことだろう。水島昇教授(医学系研究科)は、2016年ノーベル生理学・医学賞を受賞した大隅良典栄誉教授(東京工業大学)と共に研究した経験を持つオートファジー研究のパイオニアだ。水島教授に高校時代の過ごし方や現在の研究に向き合う態度、高校生に向けてのメッセージを聞いた。

(取材・石井達也 撮影・一柳里樹)

 

 

広い視野で研究

 

――現在の研究分野は

 細胞が自身の一部を分解して恒常性の維持などを行うオートファジーの仕組みと役割についてです。オートファジーは、対象をあまり限定せずに細胞の中身を分解する仕組み。どう応用していくかはまだこれからの研究で、今は基礎研究の段階にあります。

 

 私自身の役割は基礎的な研究でオートファジーをもっと明らかにしていくこと。研究室の中でも、科学者のコミュニティの中でも、それぞれがチームワークの中で分担をして働いていくことが重要になってきます。

 

――分子生物学の道に進んだ理由は

 もともとは、生物の複雑な仕組みが分子レベルで明快に説明できることが魅力だと考えていました。遺伝子解析が進みましたが、それは無限の研究対象が有限になったということ。一つの遺伝子を解明しても、ヒトの遺伝子全体の2万分の1が分かったという事実にしかならないのです。それからは、全体を見る物の見方をしようと意識が移っていきました。

 

 大事にしているのは普遍性です。例えば「この細胞で分かったことは他の細胞でも同じだ、他の生物でも同じだ」ということを研究したいなという思いがありました。その点、普遍性がかなり高いオートファジーという今のテーマはとても気に入っています。

 

 まだ医師として働いていた時代に、オートファジーを研究する大隅先生の下へ移りました。私の最大の発見は「大隅先生の発見」なんです(笑)。研究が実用的かどうかを気にせず科学を純粋に愛する大隅先生の姿勢には、大きく共感する部分があります。医者でありながら酵母の研究という実用から離れたことに興味を持っていた私にとって、大隅先生の研究室に加えてもらえたのはとてもありがたかったです。

 

――研究では何を心掛けていますか

 細部を研究していくのはもちろん面白いことですが、できる限り広い視野を持つことを心掛けています。この姿勢は学生への指導の上でも心掛けていますね。無理強いすることではないのですが、自然と学生も細部ではなく全体を見るようになっています。

 

 研究の上では、考えても分からないようなことを明らかにしていきたいという思いがあります。特に生物学という分野は物理学などのように成熟した分野ではないので、まだ気付かれていない課題が多いのです。全く予想が付かないことを思い付くのが一番面白いこと。基礎研究の醍醐味はコンセプトの発見ですね。

 

――研究での苦労にはどのように向き合いますか

 苦労すること自体が研究者の存在価値です。言ってしまえば全てが苦労なのですが、それは求めている苦労。お金を払って難しいパズルを買うのと同じです。

 

 研究者にとって、解けるべき問いがすぐには解けないのは幸せなこと。たまに訪れる大きな発見だけでなく小さな一歩もとてもうれしいんです。小さな発見はたくさんあるので行き詰まるという感覚はないです。しかも研究者はお金をもらって研究しているわけです(笑)。

 

 

まずは「筋トレ」を

 

――高校時代の様子は

 私の高校では受験指導が一切なく、好きなことがしっかり勉強できました。部活はブラスバンド。両親の影響で、幼い頃から音楽が好きでした。音楽は全てが楽譜に記載されていて、誰もがその通りに演奏できるという再現芸術です。遺伝子に情報が記載されているように、得体の知れないことはないという安心感があります。

 

 漠然とした「研究者は格好良い」という思いがありました。ものすごく理屈っぽく、暗記物はまるで駄目だったので、もともとは理学系に進もうと思っていました。その中で、分子生物学の将来に期待したというのが医学部進学を決めたきっかけです。

 

――高校と大学との違いは

 高校までは「生徒」、大学では「学生」と呼びますよね? 高校までは受け身であるのに対し、大学では自分で学びたいことを見つけていく必要があります。授業などは研究に向けての準備に過ぎません。研究すべき「クエスチョン」を見つけること、これが大学生に求められることです。

 

 クエスチョンの見つけ方は、テクニックとして教えられるものではありません。小さい頃から頭で考えて自然と養っていくものですね。いいクエスチョンを見つければいい業績が得られるわけです。

 

――東大の魅力は

 総合大学であり、ヒューマンリソースがたくさんあることが魅力です。他分野の力を借りる共同研究ができます。

 

 科学は今、高度になればなるほど細分化されてしまっています。広い視野で研究するためには、自分の分野だけに閉じこもらず、他分野の人たちと交流していくことが大事になってきます。

 

――高校生にメッセージを

 あまり将来の夢や目標を具体的にしない方が良いです。知らないことが多い中では正確な判断ができず、より自分にフィットする進路がおのずと排除されてしまう。急いで将来を決めるよりかは、選択しなければならないときに思い切り飛び付けるだけの基礎体力を付けるために勉強すること自体に意味があると考えておきましょう。筋トレをしておけばどんなスポーツに生かせるのと同じです。

 

 どんな仕事でも、アウトプットのほとんどは文章を通じた形になります。どんな分野に進むとしても、文章で自分の考えを伝えることは、きちんとできるようにしておくべきですね。東大では理系入試でも国語がありますよね? それは東大の良いところだと思いますよ。私は入試国語は全くダメでしたが(笑)。

 

水島 昇(みずしま・のぼる)教授 (医学部・医学系研究科)

 96年東京医科歯科大学大学院修了。博士(医学)。東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科教授などを経て、12年から現職。著書に『細胞が自分を食べる オートファジーの謎』(PHP研究所)など。

 

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