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2018年4月15日

【N高生のリアル】<子供たちだけの世界>に学校を 記者が見たN高がつくる未来

 全10回でお送りした「N高生のリアル」の最終回をお送りする。今回は、連載を担当した学生記者からの「オピニオン記事」となる。

 

記者について:東京大学教育学研究科比較教育社会学コース修士課程修了(2017年)。東大新聞オンラインの立ち上げの経験も含め、インターネット×学校教育を対象として、社会学的に研究している。

 

 

<子供たちだけの世界>に学校を

 

 スマホネーティブ世代が今、中高生になった。今の子供たちのスマートフォンの使いこなしっぷりはすさまじい。多くの子が自らコンテンツを発信し、同級生のコンテンツに「いいね」をつけてコミュニケーションをしている。

 

 インターネット上に教育サービスを展開するというのは、いわばそういった<子供たちだけの世界>に割って入るということである。

 

 N高は、その世界にいかにして入っていったのだろうか。

 

インターネットによって出現した教育の「フロンティア」

 

 N高にまつわる記事といえば、VR入学式といった派手な演出と、「プログラミング教育」×「起業部」といった、情報が高度化する社会を生き抜く、新しい力を持った人材輩出への期待を取り上げたものが多い。

 

<参考記事>

N高、全新入生2800人にVRゴーグル配布して入学式

N高が起業家を育成する「起業部」設立–高校卒業後の進路に新たなスタンダードを

 

 このような先端テクノロジーの導入や、社会の先端人材輩出なども、確かにN高の特徴的な取り組みの一つだ。だが筆者は、多くのメディアが注目するこれらの「分かりやすい」魅力とは違う点に希望を感じている。それは、「若者のインターネット・コミュニケーション上に学校を立ち上げる」意義である。

 

SNSによって成立する学校空間

 

 全10回の連載の中で、最も反響を呼んだのが、連載第5回のSlackでのオンラインHRの取り組みである。

 

 普通の学校においては、スマートフォンやSNSは使用禁止であったり、あるいは教育的に忌避されたりする場合が多い。しかしN高においてはむしろ、スマートフォンやSNSが生徒と教師を結ぶ貴重なコミュニケーションの手段だ。

 

 それ故、普通の教師は「生徒がSNSばかりやっていてけしからん」となるところを、N高教師は「生徒がSNSを見てくれない」と、「悩み」が反転する。

 

 そこにおけるN高教師の仕事は、まずは「生徒がクラス運営用SNSにアクセスする」ことを仕掛けることだ。そのために担任教師は、親しみやすいキャラクターを演じたり、ゲームをする企画をしたりと、さまざまな工夫をしていた。教師は生徒にオンラインHRに来てもらうことで、学習への動機付けをしていた。

 

 N高のSlackでのコミュニティーづくりは、当初は生徒同士のコミュニケーションのトラブルがあったものの、生徒内での自警団が結成されるなど、インターネット・コミュニケーション上の秩序を作り出す試みだった(連載第9回)。

 

 また、生徒が自由に活動するネット部活の役割も見逃せない。連載第8回でも一部取り上げたが、ネット部活によって、生徒が社会的に立ち直ったケースも出てきている。

 

「いつでも・どこでも・だれでも」の先へ

 

 しかし、インターネット上で教育を行う取り組みは、N高が初めてではない。古くはアメリカのカーンアカデミーや、日本でもさまざまなサービスが世に出てきた。これら既出のインターネットでの教育サービスと、N高の違いはどこなのだろうか?

 

 多くのオンライン教育サービスは、教育者(大人)が作った授業や教材といった「コンテンツ」を学習者(子ども)に届ける。そこでのストロングポイントは、教室に通わずに済むという「どこでも」、授業時間に拘束されないという「いつでも」、また限りなく値段が安い(フリーな場合も多い)という「だれでも」の3点だといわれている。

 

 N高もこの3点の強みはもちろんあるが、筆者は「学習者同士のコミュニケーションを重視した」点に、N高の特有さがあるのではないかと考えている。

 

「非教育的なもの」への挑戦

 

 N高の指導のポイントは、物理的に離れている生徒といかに連絡・コミュニケーションを取り続けられるかという点にある。

 

 通常の通信制高校、あるいは広く通信教育においても、この点が教育上の課題となり続けてきた。物理的に会って指導するならば、ある種強制的に学習をさせることも可能だが、通信教育においてはそうではない。いかにして学習者を、学習へと動機付けし続けることができるのか。N高はそれを、多くの高校生が日常的に多用している「スマートフォン」「SNS」に見出した。ここに、スマートフォンは公教育の(補完ではなく)主役となる可能性を帯びたように思う。

 

 とはいえ、SNSを使えばすぐさま高校生を学習に駆り立てることができるわけではない。ただでさえ、若者がスマートフォンを見る「アテンション時間」を、さまざまなサービスや広告、あるいはコンテンツが奪い合っているのが現状である。ある意味でN高の敵は、生徒のアテンションを奪う全てのインターネットサービスなのかもしれない。

 

 だが、それは今に始まったことではない。教育、あるいは学習は常に、そのような「非教育的なもの」との戦いであったともいえる。(例:「勉強しなければいけないけど、漫画やテレビを見たい…」)

 

 多くの教育機関は、学習者を登校させ、教室で授業を受けさせることでそれら「非教育的なもの」から隔離し、教育を施してきた。しかし、学習者が日常に帰ると、途端にそれら「非教育的なもの」から刺激を受ける日々である。これまでの教育機関は、このような生徒の現実にふたをしてきた。

 

 しかしN高は、それに立ち向かうことにした。現代で最も「非教育的なもの」にあふれるといっても過言ではないインターネット世界に、学校空間を立ち上げた。N高は、学校教育業界が開けたくなかった扉を開けて、そこに立ち入る役割を果たしたのではないか。

 

 今年も新たに約2800人の生徒を受け入れ、開校3年目にして全校生徒約6500人になったN高。快進撃が続くが、N高の挑戦はまだ始まったばかりだ。N高で育った生徒が、社会でどう活躍するのか。期待して経過を見守りたい。

 

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