COLUMN 2017年10月11日

【N高生のリアル⑦】「皆は俺の宝だ〜!」奥平校長の愛の叫びと海外からのまなざし

 恰幅がよく、笑顔が絶えない。まさに「愛される校長」。それがN高等学校長・奥平博一(おくひら・ひろかず)さんへの記者の第一印象であった。

 

 

 奥平校長は学校教育の叩き上げだ。小学校で教員生活を始め、その後通信制高校で校長を勤め続けた。だが、世間から通信制高校へのレッテル貼りに苦しむ子たちと接し続けることで、ある疑念が湧くようになる。

 

 「通信制高校でも、真面目に一生懸命勉強している子はたくさんいます。勉強に食らいついて、どうにか高卒資格を取ろうと。でも、世間からは『あの子、通信制高校なんだ。何かあったんだろうねえ』などと思われ、努力がなかなか認められないジレンマがある。それを認めさせるのは、子供の努力ではなく、通信制高校に関わる大人の努めです。私もキャリアの終わりが近くなってきましたから、最後に、通信制高校のイメージを変えたい。そう思っていたんです」

 

 この問題意識を持っていた奥平さんが、時同じくして「教育を変えたい」と考えていたドワンゴ関係者と知り合うようになり、そこからN高の物語は始まるようになる。

*このあたりは『ネットの高校はじめました。 新設校「N高」の教育革命』(崎谷実穂著、角川書店)に詳しい。

 

 「通信制高校のイメージを変えるためには、ゼロから新しく学校を作るしかないと思っていました。全く新しい会社が、全く新しい発想で挑戦するしかない。ドワンゴとは幸せな出会いでした」

 

海外講演を終えて

 記者が奥平校長にお会いした9月某日は、前日まで、台湾にいたと言う奥平校長。「オンライン教育について講演してくれ」と頼まれ講演をしてきたそうだ。(Digital Taipei2017 http://www.dgtaipei.tw/schedule.php

 

 「台湾は日本のカルチャーへの興味が強い国なので、ニコニコ動画をやっている会社が高校を始めた、ということに関心が高いみたいです。同じカンファレンスで、ミネルバ大学関係者も講演者で呼ばれていて、ミネルバ大学とN高が並んでいいのかな、と嬉しくも戸惑いましたが(笑)」

 

 ミネルバ大学とは、ウェブメディアでは「ハーバードより難しい」といわれている学校だ。固定したキャンパスを持たず、世界の国際都市7都市に拠点を構え、半年ごとにローテーションで移動していく。各都市でプロジェクト学習を行い、都市ごとに抱える課題を解決する実習を続ける。世界に散らばる学生同士をオンラインでつなぎ、学習を進める点も新しい。(https://collegino.jp/app/media/234

 

 記者はミネルバ大学の日本事務局に取材をしたこともあるが、すでに日本人学生も輩出している。2014年設立で、今年ようやく卒業生を出した新しい学校。こちらも目が離せない取り組みだが、N高はその世界的に注目が高いミネルバ大学とカンファレンスで並び立ったことになる。

 

 「N高もミネルバも、オンラインを積極的に活用している点でも似ていますが、本質的には知識の教え込みではなく、何かを創り出す実践にフォーカスしている点で同じです。よく考えてみれば、日本の高等学校も義務教育ではないのだから、もっと多様な学びが社会にあっていいはずです。学歴を取りに行くことを主にした現在の教育ではなく、知識よりも知恵と好奇心を重んじる学び。好奇心で勉強した時に、その学びが学習者にとって本当に意味のある学びになるのです」

 

学歴と能力は違う。N高で尊ばれるのは知識ではなく、知恵と好奇心。

 

 記者が奥平校長にインタビューした日、N高代々木キャンパスでは、7月から始まった探求学習であるプロジェクトNの中間発表会が行われていた。

 

発表前最後の準備に勤しむ生徒たち

 

 教職員も集まり、「ペットの誤飲事故をなくす、食べられる玩具プロジェクト」「障がいのある児童と先生・保護者をつなぐ連絡帳作り支援プロジェクト」など、六つのグループがプレゼンテーションをした。

 

資料・トーク共に練られた発表をする生徒たち

 

 これまでプレゼンテーションの授業も受け、練習を重ねた上での発表だったらしく、スライドの出来やジェスチャー、アイコンタクト、ユーモアなど、高校生離れしたクオリティーの発表であった。「みんなの発表、本当に上手ですね」と筆者が感想を述べると

「いえいえ、まだまだ言葉選びなどで稚拙な面があると思います。ただ、自分で企画を立て、積極的に前に立って発表していこうという姿勢が育ってきました。メディアの方も含め(注:筆者以外にも大手メディアの記者が見に来ていた)、大勢の大人と仲間が見守る中、堂々と大胆にプレゼンテーションする力。この場で発表するために、生徒たちは必要な力を得ていきます。『こういう企画がしたいから、こういう知識が必要だ』といった形で、彼らは力をつけていく。企画や発表の中身以上に、継続して企画する、調べる、発表する、企画を実行するというサイクルを回すというこの流れの中に、大切な学びがあるのだと知ってほしいですね」

 

優秀賞を授与する

 

 イアホンを作るあるプロジェクトチームは「SONYと提携したい!」と言い、近々SONYに足を運ぶそうだ。他のプロジェクトチームはすでに企業を訪問してプレゼンテーションを終えたという。

 

 「私は、学歴と能力は違うと考えます。これからは学歴よりも、能力を高める教育にシフトしていく必要があります。今、世間から見ると、「N高=学歴が低い」というイメージでしょう(笑)。でもそれは能力を高める教育をしているからです」

 

 知識ではなく、知恵と好奇心。実践。――この考え方は、驚くほど代々木キャンパスに通う生徒たちに浸透していると、記者は生徒と交流する中で感じている。

 

グループ発表から互いに学び合うように促している

 

 「子供たちに再三言っているのは、学校が何かをしてくれるわけじゃない、学校を使って自分が何をするのかが大事だ。N高を一緒に作っていこう、ということです。彼らはそういうことを毎日聞かされています(笑)」

 

保護者と子供の心の「何か」に触れた

 

 設立2年目ですでに4千人の生徒を抱えるなど、破竹の勢いで入学者を集めるN高等学校。そこには、若者の心を捉える何かがあるのではないだろうか。

 

 「いわばN高は、既存の制度の中で、何か違うと思っている人、集まれ!と狼煙をあげたようなものなんです。正直私たちも、どれだけ入学者が集まるか、最初は不安でした。しかし、蓋を開けてみると、大勢の生徒さんが集まった。何より、これだけの保護者の理解と共感があったことが驚きです」

 

 広域通信制高校であるN高は、全国の学生を受け入れている。一般に広域通信制高校は過疎地域の人に多く利用されることもあるが、N高生はどういう地域から応募してきたのだろうか。

 

 「それが、N高の生徒の6割は首都圏です。教育が充実しているはずの首都圏でも、何かが違うと思っているご家庭が多かった。そこにN高が登場し、『待ってました!』と手を挙げてくださったのです。

 ただし、今は新しい取り組みということで、期待値が高いのでこれだけ通わせていただけてるのだと思います。N高からどういう卒業生が世の中に出て行くのか、これからはそれが問われます」

 

奥平校長が愛を叫ぶ

 

 プロジェクトNの発表会が終了後、生徒たちの前に立ち奥平校長がマイクを握る。

 

 

 「昨日まで先生は台湾にいました。講演会をして欲しいと頼まれたんです。N高は世界的に注目されています。皆さんも、小さな中で考えたら「N高に通っている」というのは異端児と思わるかもしれません、でも、そういうことを気にしている時代ではありません。地域や国を超えて、世界規模で考えたら、N高に通っていることは誇りなのです。先生も、台湾の講演会で発表した後、大勢の人に囲まれて英語で話しかけられました。いや〜、英語は話せないといけんね(笑)。でもそれくらい、注目されているということです。これからの時代は知識じゃないんだ。知恵と好奇心を持って、自分で道を切り開いて行くこと。N高はそれをやろうとしている。小さな世界でのものの見方に押し込められないで。世界の視点を持って堂々としてください。

 私がN高を始めようとした3年前、学校拠点のために沖縄の離島の廃校を借り受けようと、一人で那覇空港に降り立った時、沖縄の知人たった一人だけの連絡先が入った携帯電話とスーツケースだけを持っていました。どこか使えるところはないかと探し回りながら、これから作る学校に色々な生徒が来てくれたらいいなと思いを馳せました。今はその夢が叶い、多くの生徒が夢を持って入って来てくれています。私も一人では決してできず、色々な人の手を借りながら成し遂げたように、皆さんも自分一人でできないことがあれば、仲間に頼ってください。新たな活動をどんどんしてください」

と熱く語った後、一言を添える。

「昔の表現だけど………皆は俺の宝だ〜!!」

 

 奥平校長の愛の叫び。照れる生徒たちから、一拍空いて拍手が起こる。鳴り止まない拍手の中で発表会の幕は閉じられた。日本を超えて世界に挑む、N高の挑戦は続く。

 

【N高生のリアル】

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