COLUMN 2018年12月6日

【発掘!東大博物館②】「建築ミュージアム」とは何か? 小石川分館編

 東大の博物館を紹介する本企画の第2弾は、総合研究博物館小石川分館を取り上げる。丸ノ内線の茗荷谷駅から徒歩約10分。都心とは思えないほど緑豊かな景色の中に現れる、赤と白のかわいらしい建物が小石川分館だ。この博物館のコンセプトは「建築ミュージアム」。これにはどのような意図が組み込まれ、実際の展示にどう生きているのだろうか。構想に携わった松本文夫特任教授(総合研究博物館)に話を聞いた。

(取材 持田香菜子)

 

松本文夫特任教授(総合研究博物館)

 

──「建築ミュージアム」ができるまで

 

 小石川分館の前身となるのは、東京大学ができる前年、1876(明治9)年に建設された旧東京医学校本館という建物。当時は本郷キャンパス内にあり、2度にわたる移築を経て、理学部附属植物園(小石川植物園)内の現在地に設置された。明治初期の木造擬洋風建築を今に残す貴重な歴史遺産で、国の重要文化財に指定されている。加えて、東京大学における現存最古の学校教育施設という側面も持つ(建造物としては赤門が最古である)。このような、建物がもつ特殊な背景を加味し「学校建築ミュージアム」として2001年に一般公開された。

 

小石川分館外観

 

 当初は大学の研究教育で使われてきた学術標本や教育機材が展示されていたが、それらの展示物は2013年に丸の内に開館した学術文化総合ミュージアム「インターメディアテク」に移管された。その結果小石川分館には、特別展示用に東大の学生によって制作された建築模型が残された。これらをベースに新たなコンセプト「建築ミュージアム」を掲げてリニューアルされたのが、現在の小石川分館の展示だ。

 

世界の有名建築の縮体模型を展示したスペース。模型が入れられた鋼鉄製のケースは、かつて医学部で使用されていた備品だ

 

──縦割りを横割りへ

 

 しかし「建築ミュージアム」といっても、建築模型だけを展示しているわけではない。鶴見英成助教(総合研究博物館)が担当する民族学資料や、動植物・鉱物など一見して建築とはかけ離れたものも扱う。

 

「身体空間」と銘打たれたスペースにはカヌーの展示が

 

 「小石川分館は建築をテーマにしていますが、より正確にコンセプトを表すには『アーキテクチャ』という言葉の方が適当です」と松本特任教授は言う。「アーキテクチャ」とは、主に建造物を指す「建築」よりも広く、構成原理・設計思想といった抽象度の高い意味内容をも含み込んだ概念だ。

 

 「私は建築を専門にしていますが、動物や植物などの構造を見てすごく感動することがあります。新しいデザインに生かせるのではないかと考える。『アーキテクチャ』として感じ取ったことが、アイデアを生み出すきっかけになりえます。ここの展示は、自然物から人工物まで、一見関わりのないものを展示しているように見えますが、それらを『アーキテクチャ』という共通の視点で捉えてみると、違う分野のものが同じ言葉で語れるような特徴・性質を帯びてくる。それが面白いのではないかと思います」

 

入り口付近に展示されたクルマガイ。学名にArchitectonicaを含み、ここにもアーキテクチャが見出せる

 

 一般に博物館は、さまざまな分野のモノが集まってくる場だ。それらを分類・整理し、縦割りを精緻化していくのは博物館の主な役割の一つといえる。しかし「アーキテクチャ」というテーマで横断的に捉えなおしてみることで、新たな発想が生まれる「場」たりえるのではないか。そうした創造的な効果を期待して展示を作っているという。

 

──ミュージアム概念の「拡張」

 

 従来、博物館は一つの場所にあり人も物もそこに集まってくるものだというイメージが強かった。その固定観念から抜け出し、小さくコンパクトに作った展示を街の中に出していこうという試みが、総合研究博物館全体として重要視されている。具体的には、小規模な展示をオフィスビルのロビー空間に設置するといった企画を数多く行ってきた。

 

 また、小石川分館では定期的に「建築博物教室」というイベントを開催し、各分野の専門家を呼んで「〇〇のアーキテクチャ」というテーマで講演を行っている。同時に専門分野に沿った小さな展示を作ってもらい、それが展示室の中に一つずつ増えていっているという。可動性を重視した「モバイルミュージアム」の思想を表すことも、展示の目的の一つだ。

 

「チェリャビンスク隕石」。建築博物教室「太陽系のアーキテクチャーー隕石に刻まれた46憶年史」開催に合わせて作成された「モバイルミュージアム」の一例

 

 松本特任教授によれば、博物館は上述のように存在形態が変わり得るだけでなく、機能の面でも可能性を広げられる余地があるという。「博物館にはせっかく多種多様なものが集まってくるのだから、過去の記憶を保存する拠点としての役割にとどまらず、未来の創造に役立てる場所にしたい。情報が集約されている場所というのは、それだけで新しいものが生み出されるポテンシャルを持ちます。博物館でモノを見たときに出会うかもしれない『いいな』という感覚が、その人にとって何かのときに生かせる原石になればと思います」

 

──大学博物館として

 

 小石川分館は「大学博物館」だ。大学との関わりとしては、展示されている建築模型のほとんどが学生の手によるものであることや、講義をする場として館内を提供していることなどが挙げられる。しかしそうした直接的な関係以外にも、小石川分館をはじめ大学博物館は「大学という場とパラレルな関係をもつ」と松本特任教授は言う。

 

 大学は数多くの分野にまたがる知が集まり、新たな知を生み出す場として機能する。それは博物館において、集まってくるモノに横断的な視点を取り入れられる点や、どのように活用できるかわからなくとも、気になるものに出会える可能性がある点と通じる。

 

 「前期教養課程で空間や映像を作る授業を開いており、受講した学生には自分が作りたいものを考え、進め方を試行錯誤しながら作品を完成させるという体験をしてもらいます。アイディアを形にする体験は将来どの道に進んでも、何らかの形で生きるはずです。小石川分館を訪れる人にとっても、つかんだものをどう次につなげるかまでは立ち入れずとも、展示を通して何かを感じ取るきっかけを提供できればと思います」

 

松本特任教授による「建築の記憶」。古代から現代に至る30の建築物を集め、同縮尺で一つの直方体を形作った。建築の記憶を集めたことで空間の歴史的変遷が浮かび上がる。博物館に集まるモノも、活用の仕方次第で新たな顔を見せるだろう

 「建築ミュージアム」であなたは何を感じ取るだろうか。一つ一つの展示をじっくり見ることもおすすめだが、ぜひ展示空間全体に込められた意図も意識しながら館内をめぐってみてほしい。

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