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2021年7月17日

『大豆田とわ子と三人の元夫』佐野亜裕美プロデューサーが語るドラマ制作・後編

 

 6月15日に最終回が放送されたドラマ『大豆田とわ子と三人の元夫』(カンテレ・フジテレビ系、脚本・坂元裕二)は、放送後にSNSでトレンド入りし、インターネット上でもさまざまな考察記事が公開されるなどの反響を呼んだ。作品のメッセージや制作時のエピソードについて聞いた前編に続く後編では、佐野プロデューサー自身のテレビドラマ制作の仕事への思いを聞いた。(取材・鈴木茉衣)

 

前編はこちら

 

私は「やりたくないことはやらない」ことを大事にしていました

 

──テレビドラマという形で映像作品を作ることを選び、それを続けていることの一番の理由は何ですか

 

 東京でこういう仕事をして生きている私たちにとっては、Netflixに月1000円くらいのお金を払うことや1900円払って映画館に行くことって普通に日常の中にあることですよね。でも例えば私の地元の静岡に戻ったりすると、今無料で見られるものがこれだけいっぱいある中で、ここで生きて暮らしている人たちが有料のものにいくらお金を払うかな、と思うんです。どんどん日本が貧しくなっている中で、どこにいてもテレビさえあれば無料で見られる、というテレビの良さはまだまだあるなと思っています。

 

 それと、映画の2時間で何かを描こうと思うと、キャラクターを立ち上げるだけで結構精一杯だなと感じるんですよね。でも連続ドラマは10時間もあるので、10時間を通してキャラクターがどう変化するのか、どう成長するのかを週に1回見られてとても好きですし、連続で10話といった長さでしか描けないものがあると思います。ドラマは地位の低いものだったけれども、ちょっと見直されてきているのかなと思います。

 

──例えば若者のテレビ離れなどと言われることもありますが、そんな状況だからこそやりたいことや伝えたい思いはありますか

 

 若い人が例えばテレビドラマよりもYouTubeを見ている、などとはよく言われますが、YouTubeで描かれているものとドラマで描かれているものは全然違うので、いろいろなものを選択肢として提示し続けたいと思っています。会社員である以上リアルタイムの視聴率もどうしても気にしなくてはいけないんですが、ちゃんと時代をつかんでいる良いものを作って、どんな形でも見てもらえれば、それが嬉しいです。

 

 かつてのようにテレビをリアルタイムで、お茶の間でみんなで見る、ということは確かに減っていると思うんですが、今はTVerやU-NEXTなどいろいろなキャッチアップの仕方がありますよね。前より見られていないなという感覚は作り手としてはそれほどないですし、話題になる強度のあるものを作れば届けたいところにも届いていると思います。

 

──『大豆田とわ子と三人の元夫』は、佐野さんがTBSからカンテレに移籍して最初の作品でした。社長とプロデューサーの仕事に近い部分があるというお話もありましたが、組織に所属しながら作品を作ることの難しさについてやキャリア形成について現在どのように感じていますか

 

 大事にしているのは、やりたくないことをやらないで済む環境にいたい、ということです。というのも、ドラマを作りたくて制作でTBSに入社して、制作で一貫してやってきたところで、全然違う海外事業部という部署に異動になったんですよ。海外にも通用するようなドラマを作りたいという夢があったので、やるべきかやらないべきかでいうとやるべきだったと思うんですが、そこで一度立ち止まって、制作現場でないところで働く自分が想像できなかったし、単純にやりたくないと思ったんですよね。組織の中だと異動というのがどうしても付きまとうので、そこから逃れる方法というのを色々模索して、カンテレに基本的に制作現場に所属する、という条件付きで採用してもらいました。

 

 もちろん東京のキー局から地方局への異動で、人材的にも金銭的にもリソースは減った部分は大きいですが、その分自由にできる側面があります。TBSだったらこのドラマの企画は絶対通っていなかっただろうとも思いますし、やりたくないことをやらないためにその道を選んだからこそこのドラマを作れたわけで。一言で言えることではないですが、やりたくないことはやらないという判断基準だけでやっている自分の人生はなかなか悪くないなと思えます。

 

 なぜフリーにはならなかったかというと、例えば私がフリーになって企画を立てて局に持っていくと、莫大なお金を動かすのにどうしてもその会社の責任者が必要なので、局のプロデューサーというのが作られて、私が作りたいものとそことの戦いになってしまうんですよ。でも私が局の中にいれば、自分で全体の予算管理もしながら、どこにどうお金を使っていくか考えられるんです。あとはフリーになると、それこそやりたくないことをやらないと生きていけなかったりするだろうな、とも思ったからです。日本も変わっていくと思うので、私にとっての「やりたくないことはやらない」のような物差しを何か持っていると、選んだ方をちゃんと正解にしていけるんじゃないかな、と思います。

 

佐野亜裕美(さの・あゆみ)さん
06年東大教養学部卒。TBSに入社後『99.9-刑事専門弁護士-』『カルテット』『この世界の片隅に』などのプロデューサーを務める。21年カンテレへ移籍し『大豆田とわ子と三人の元夫』を担当。

 

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【記事修正】2021年7月17日20時8分 経歴に「東大」を追加しました。

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