授業

2023年4月19日

本年度から英語一列がリニューアル 「必修英語」その意義と目標とは?

 

2023 年度から教科書改訂  英語一列 の変わること、変わらないこと

 

 本年度から教科書が改訂された「英語一列」は『多元化する世界を英語で読む』(東京大学出版会)に採録された11の英文(各英文は前編後編に分けられているためSessionの数は22)の中から、SセメスターとAセメスターに7コマずつ、計14コマの授業で扱える分量を選び、本文の精読や本文に関連するビデオ教材などを通じて内容の理解を図る授業である。13年度から昨年度まで使われていた『教養英語読本Ⅰ/Ⅱ』(東京大学出版会)から変わった点や変わらない点、また英語一列の狙いなどについて、東大教養学部英語部会の加藤恒昭教授と田尻芳樹教授(ともに東大大学院総合文化研究科)に聞いた。(取材・小原優輝)

 

従来の教科書からの変更点

 

 「できるだけ新しいことについて読んだ方が刺激がある」「英語を通じて現在の世界も知ってほしい」といった思いから、英文の内容を新しくする機運が高まり、10年ぶり4回目の教科書改訂に至った。

 

 主な変更点は二つ。一つ目は教科書の冊数だ。昨年度までの英語一列では2冊の教科書が存在し、両方を使用していた。これは前の教科書が編さんされた2013年の時点までは、現在よりも授業量が多かったためだ。しかし現在の授業量では1冊で22Sessions(1Sessionでおよそ4ページの英文)あるものを2冊分、計44Sessionsもの英文を用意する必要がなくなったため1冊、22Sessionsのみとなった。14コマでは最大14Sessionsしか進まないが、年ごとに扱うにふさわしいトピックが変わることを考慮し、Session数に余裕を持たせているという。

 

 二つ目は注の付け方だ。『教養英語読本Ⅰ/Ⅱ』には、左のページに本文、右のページに注や文中の語の意味を問う3択問題や文の内容について問う問題、巻末に問題の答えが載っていたが、新しい教科書では単純な3択問題や巻末の答えは削除され「考えさせられる」問題のみをQuestionとして収録している。

 

 一方で「理系と文系(的な文章)を半々ぐらいにする」「現在の世界で議論されている『旬な』読み応えのある話題を取り入れる」といった英文採録の方針は、英語一列の開始時から変わっていない。しかし世界で問題とされることが10年で大きく変化しているため、それに合わせ英文の内容も変わっている。感染症の話題や、インターセクショナリティー(個人の複数のアイデンティティーが組み合わさって起こる差別を理解するための枠組み)の話題が盛り込まれたほか、英国や米国だけでないインド・アフリカ・カナダなどの地域についての英文が積極的に採録され「今までの教科書以上に多元化・多様化を強調している」

 

『多元化する世界を英語で読む』(東京大学出版会)
『多元化する世界を英語で読む』(東京大学出版会)

 

期末テストやクラス分けに関して

 

 授業形態に変更はなく、期末テストも従来通りリーディングのみとなる。リスニングについては「試験での運用の負荷が大きい」「共通のリスニング教材を用意し授業で扱わなければならず、授業内容に広がりがなくなる」「リスニングはFLOWやALESS/ALESAで扱うので、英語一列ではリーディングに力を入れる」といった理由から、テストには取り入れられない。

 

 本文を暗記しているか否かに期末テストの点数が左右されやすい問題が指摘されているが「内容をしっかり理解しているか問う問題を作っている」「本文の字面だけを完全に暗記しているからといって満点を取れる試験にはしていない」と話す。

 

 G1・G2・G3のクラス分けについては、Sセメスターで入試の英語の成績によってされるのに合わせ、Aセメスターのクラス分けも、教科自体の成績ではなく期末テストのみの成績を基準に行われているという。

 

英語一列を通して学生に身に付けてほしいもの

 

 教科書が変わっても「英語を理解し、英語で議論し、英語の文章を書くときに『中身のある英語』を操れるようになってもらいたい」思いは当初から一貫している。今回の改訂後は特に、英語を学ぶと同時に多元化・多様化する世界について考えてもらうことも目標だという。「英語学習は単にペラペラしゃべれば目標達成ではなく、物をしっかり考える『重み』が必要」と語る。

 

英語一列の学習法

 

 自分で辞書を引きながら予習をして授業に臨んでほしいという。分からない表現や単語の意味を調べるだけでなく「各Sessionに一つ以上ある、QuestionやDiscussionの答えを自分で考えてもらいたい」

 

 インターネット上の辞書を使って英語の意味を調べる学生も多いが、田尻教授によればネット上の語学的情報では不十分。電子辞書などに入っている英和大辞典を使ってほしいとのことだが、電子辞書を買ってくれなかったり、大学での学習には不十分な高校モデルのものがそのまま使われたりすることが多いと嘆く。

 

DeepLやChatGPTなどの機械翻訳ツール使用について

 

 基本的に英語のレポートにDeepLやChatGPTを使うことは「アウト」。対策のため評価方法をレポートからテストに変更した教員もいるという。一概に使用を禁止するのは難しいとしつつも、大学教育では機械翻訳を使わずに英文を書く力を鍛えることが目標と加藤教授は話す。

 

 機械翻訳ツールを使いこなすには、翻訳結果を自分で確認して修正するポストエディットや、機械翻訳に誤解されない文章を入力するプレエディットに英語力が必要だと語る。実生活で自分でチェックしながら活用することは構わないというが、英語力に自信がない人が課題を完全に機械任せにすることは控えたほうが良さそうだ。

 

英語二列 クリティカルシンキングと論理性を鍛える KWS担当

 

 英語で論文を書く英語二列W(理科はALESS、文科はALESA)、ディスカッションを中心とした英語のスピーキングを鍛える英語二列S(FLOW)が、必修の「英語二列」として開講されている。英語二列に関する相談受け付けなどを行うCAWK(駒場アカデミック・ライティング・センター)英語部門担当者のダイアナ・カルティカ准教授(東大大学院総合文化研究科)に、これらの授業の意義や目標、センターで行っているサポートなどについて聞いた。

 

CAWKのロゴマーク
CAWKのロゴマーク

 

英語二列W(ALESS/ALESA)を必修で開講する意義

 

 教養教育の一環として「クリティカルシンキングの能力(批判的思考力)や、論理性を持って他の人とコミュニケーションする能力」を養う目的がある。研究者を目指す人以外にとっても受ける価値のある授業だと話す。

 

 08年の開講時はALESSしかなかったが、文系の学生にもクリティカルシンキングや論理性に関する教育が必要だという声から、13年にALESAも始まった。

 

ALESS/ALESAは負担が大きい?

 

 教員の間でも、論文を書く学生にとって負担が大きいということは認識されている。教員による週1回のサポートミーティングの中で、学生たちの声から判明した負担の大きさなどの問題について検討し、より良い教育を目指しているという。例えばできる限り負担を分散させるために、1~3回目では論文の構成について検討し、4回目から少しずつ書き始めるという工夫をしている教員もいると話す。

 

ALESS/ALESAで共通する要素

 

 ALESS/ALESAを担当する教員の専門分野は多様で、学生の様相も異なるため、授業内容も多少「フレキシブルにしている」という。しかし短めの論文を1本書く目的は一貫している。クリティカルシンキング能力を身に付けさせるとともに、学生が論理性を持って自分のテーマを書くためのサポートをすることも全ての教員が行っている。加えてALESSではIMRaD(Introduction, Method, Result, and Discussion:導入、方法論、結果、考察)方式にのっとって書く、ALESAでは文献や先行研究を参照する、Argumentative Essay(自分の立場を明確にし、はっきりとした主張を持って論文)を書くといったテーマも共通している。

 

7回のFLOWで何が身に付く?

 

 英語のアウトプット能力の中で、ALESS/ALESAがライティングを担うのに対し、FLOWはスピーキングを担う授業として15年に始まった。しかし、ターム制の授業なので7回しかなく「受けたことですぐに流ちょうになれる」という授業ではないという。7回の間にスピーキングやディスカッションにおける自分の弱点と強みについて検討し、授業終了後でもコミュニケーション能力を自分で磨けるようになることを狙いにしていると話す。

 

 FLOWはALESS/ALESA以上に授業内容が幅広いが、ディスカッションや発表の中でのクリティカルシンキングの能力や、言いたいことを論理的に発表する能力を養うという狙いは共通しており、ALESS/ALESAと似た部分があるといえる。

 

ライティング・センターで受けられるサポート

 

 ALESSについて、センターでは論文を書くサポートを行っており、実験についてはALESSLabが相談を受け付けている。しかし学期後半の時期はALESSLabのTA(ティーチング・アシスタント)が来室し、実験とライティングの同時対応ができるようにしている。自分の考え方をどのように確実に言語化して伝えるかに関する相談が一番多いという。

 

 ALESAではテーマを決める時期から相談に来る人が多い。FLOWでは最終の発表やディベートの練習をしに来る学生が多く、発表のスライドに関する相談もある。スライドに載せる情報は多すぎず少なすぎず、大事な情報を分かりやすくまとめる力が大事とのこと。

 

 共通して言えるのは、学期の終わりごろ、発表や論文提出の締め切り間際になって相談に来る学生が多いことだ。しかし、相談の時間枠やTAの人数には限りがあるため、できれば早めに、締め切りまでに余裕を持って気兼ねなく相談に来てほしいと話す。

 

変わるライティング・センターCAWK

 

 22年4月1日より、CAWKが発足し、KWSはその下部組織となった。それ以前は英語部門(駒場ライターズスタジオKWS)のみだったが、CAWK発足と同時に日本語非ネイティブ向けの日本語部門も誕生。本年度からは初修外国語上級部門と初年次ゼミ部門が開設され、24年度以降には主題・総合科目支援、さらに将来的には後期課程・大学院生の支援も検討している。駒場で学ぶ学生全体をサポートする組織へ拡張される見込みだ。

 

 ライティング・センターは一貫してALESS/ALESAとFLOWに関する個人サポートを行ってきたが、将来的には、学生のニーズに合わせて文献調査や学術論文の作法についてのワークショップもライティング・センターで行う予定だという。

 

新入生へのメッセージ

 

 ライティングはあくまでも「文献を調査し、情報を集め、考えをまとめ、草稿を書き、推敲を重ね、最後に書き上げたものを提出するというプロセス全体」であり、そのプロセスのどんな段階であってもライティング・センターに来て構わないという。

 

 ALESS/ALESAはしんどいなどといったうわさをうのみにせず、偏見を持たずに「自分のALESS/ALESA、自分のFLOW」を体験してほしいと語る。ALESS/ALESAは「もちろん、すごく簡単な授業とは思えませんが、教員のサポートをしたいという気持ちは強いので、遠慮なく教員に支援を求め、積極的にライティング・センターも利用してほしい。自分ひとりで苦労せず、サポートしてもらいながらライティングをしましょう」

 

 

 

加藤恒昭(かとう・つねあき)教授(東京大学大学院総合文化研究科)83年東京工業大学修士課程修了。博士(工学)。NTT、東大大学院総合文化研究科助教授(当時)、同准教授などを経て、21年より現職

 

 

田尻芳樹(たじり・よしき)教授(東京大学大学院総合文化研究科)04年英ロンドン大学で博士号を取得。Ph.D.(英文学)。一橋大学助教授(当時)、東大大学院総合文化研究科助教授(当時)、同准教授などを経て、15年より現職

 

 

ダイアナ・カルティカ准教授(東京大学大学院総合文化研究科)17年早稲田大学大学院博士課程修了。博士(国際協力/教育開発)。東大教養学部特任講師などを経て、21年より現職

 

タグから記事を検索


東京大学新聞社からのお知らせ


recruit

   
           
                             
TOPに戻る