専門分野に応じて数多くの専攻や研究室に分かれる大学院。そこでの学び方・生活の仕方も人によってさまざまだ。就職活動と研究を同時に進める学生、研究者を目指す学生、社会人として働きながら研究を行う学生など、大学院は多様な目的・ライフプランを持った人々が集まる場所でもある。今回は法学政治学研究科・人文社会系研究科の大学院生に、進路を決めた経緯や日々の過ごし方、研究の進め方について話を聞いた。(構成・上田朔、取材・金井貴広、高橋柚帆)
法学政治学研究科 総合法政専攻
学部時代に、法学に関する書籍の出版や研究会の手伝いをする中で、研究者の道に興味を持つようになりました。当初はそれらとの関係で憲法や行政法に関心がありましたが、学部時代のゼミで学んだことをきっかけに、国家の基礎をなす公法的側面だけでなく、ダイナミックなビジネスロー的側面も併せ持つ租税法に関心を持つようになりました。
東京大学で実定法の研究者を目指す場合、まずは法科大学院に進むのが一般的です。法科大学院では実務家の魅力にも触れましたが、より自由で俯瞰的に法学に向き合える研究者への意思を固め、博士課程に進学しました。博士課程の入試は、提出した論文及び専攻分野に関する口述試験を中心に行われるため、自分の執筆した論文に対する理解を深め、入学後のビジョンについて明快に説明することが求められます。
法学政治学研究科では、基本的に各院生が個人で研究を進めるため、自分で柔軟にスケジュールを組むことができます。私も本学や他大学のゼミ、及び種々の研究会に参加しておりますが、基本的に自分で資料を探索して読み、それを分析するという時間が多くを占めます。生活にメリハリを持たせるために、平日のうち1日は特定の予定を入れない日を設け、急ぎのタスクがない場合には積極的に休んでペース調整を心がけています。
博士課程修了後も、大学に残って研究を継続したいと考えています。具体的には、情報通信技術の発展に対応した、手続的側面からの租税システムのアップデートというものを1つ、さらに、税務行政の組織が保有する納税者の多種多様な情報(租税情報)に適切な法的位置付けを与え、納税者の権利保障とのバランスの中でのより機動的な租税情報の利活用のあり方を考えることをもう1つ長期的に考えています。研究はいつも楽しいのですが、文献を読みながら、想定していなかった別のテーマとの繋がりが見えた時が、一番楽しい瞬間です。
人文社会系研究科 社会文化研究専攻
広島大学から東大人文社会系研究科に進学しました。学部時代から社会心理学や認知心理学を学び、「後悔」と「選択」をテーマに研究しています。後悔は、日常生活の中で最も多く口にされているネガティブ感情です。後悔は一見すると避けるべき感情のように思われます。しかし、人生において選択は繰り返されるものであり、人は後悔の経験を通じて次の選択を改善することもできます。私は、このような後悔のポジティブな側面に関心があります。
学部4年次の春、当時の私の関心を踏まえ指導教員が勧めてくれた、東大の社会心理学研究室を目指すことにしました。卒業研究に取り組みつつ、部活動の練習もあったため、6月から急ピッチで夏季入試の準備をしました。特に大変だったのが筆記試験の対策です。東大の教員の研究分野から問題が出題される印象で、学部時代に学んだ内容とほとんど合致しませんでした。部活引退までは日中に卒業研究の実験をした後部活、夜に試験勉強をするという生活で、引退後は朝から大学にこもって東大の心理学の授業で使われている教科書で勉強したり、論文を読んだりしました。
大学院では、自律して研究を進行する力の必要性を感じます。明確に研究関係の締め切りが与えられないので、自分でペースを掴み、研究を進行しなければなりません。また、TAとして、学部生に講義を行い、共同で実験・調査を実施する機会もあります。
修士課程修了後は博士課程に進み、大学教員になりたいです。大学の教員は自身の研究分野の面白さを学生に─それが少人数であっても─響かせられる可能性があることに魅力を感じています。研究面では現在、選択に伴う後悔がその後どのような行動的帰結をもたらすのか、を多様な選択場面で検討しており、将来は人の選択に関わる社会課題との接合も進めたいです。自分の興味や疑問を周囲に話したことで新たなご縁と研究に恵まれてきたので、恐れずに発信する姿勢が大事だと思っています。