インタビュー

2014年10月8日

東大の全学同窓会「東大校友会」とは?

東大法人化から10年。全学の同窓会である赤門学友会も10年目を迎え、今年4月に東大校友会と名を変えた。第13回ホームカミングデイ を10月18日(土)に控え、この活動を今まで取り組んできた2人に、東大と同窓会について語ってもらった。世界での大学の競争が激化する中、卒業生は母校に何ができるのか、考える機会にして欲しい。(取材・渡邊勝太郎 撮影・竹内暉英)

koyukai0.jpg杉山健一さん(左)と、島田久弥さん(右)

――本日はよろしくお願いします。まずはお二人の経歴を簡単に紹介してもらえるでしょうか。

杉山健一さん(以下、杉山)

会社を定年後、創立130周年記念事業で、渉外担当の副理事として大学に戻ってきました。寄付金集めを担当していたのですが、それ以前にすべきこととして卒業生のネットワークをしっかりしないといけない、ということで卒業生室副室長を兼務することになりました。東大校友会とはそれ以来の関わりになります。

島田久弥さん(以下、島田)

昔から50歳で仕事を変えると決めていて、次に何をすべきかと考えていたんですね。ふと杉山さんのことを思い出して相談したところ、是非ということになり、昨年から仕事を手伝い始め、今年4月からは卒業生室副室長を務めています。

――杉山さんも誰かから誘われてという感じだったのですか?

杉山

当時の総長である小宮山宏さんが研究室の2年上の先輩だったんです。大学に戻ってくる数年前に寄付の案内が来て、その後の寄付をした人対象のパーティで小宮山さんとお話ししました。定年して今は遊んでいると伝えると、それなら手伝えと言われたのが始まりです。

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――赤門学友会・東大校友会について簡単に紹介を

杉山

そもそも東大には全学規模の同窓会というものがありませんでした。東京大学学友会は2004年の法人化の半年後、ちょうど10年前に大学によって立ち上げられました。ですから、会長は総長である佐々木さん、小宮山さんでした。当時、それぞれにクラブのOB会や地域同窓会はあったのですが、それを大学として緩やかに束ねようという組織でした。卒業生の交流と、大学への支援という二つが大きな目的ですね。これは今も変わっていません。2008年に、名称を公募して、赤門学友会と改称しています。

島田

ここに来て大きな変化もあります。TFTという卒業生向けのオンラインコミュニティーがあるのですが、会員が3万人を超え、個々の同窓会を通してでなく、オンラインを通じて個人が大学とつながっているという状況が生まれてきています。今、存命の卒業生は約20万人と言われていて、うち10万人が住所などが判っており、さらにその中でオンラインでつながっているのが3万人強。今年4月に東大校友会と一般的な名称に名を変えた背景の一つは、個人で入る入らないというのでなく、東大を卒業した人は全員校友会のメンバーという、より自然な形態をイメージしています。

発展段階としては、それぞれを束ねる存在から、全員同じ交友会のメンバーという広い組織に発展してきているという状況です。

杉山

名前については他にもあって、今、赤門をくぐらないで卒業する人もたくさんいますよね。メインキャンパスは本郷以外にも、駒場、柏も含めた3つですから。そんな議論もありました(笑)。

――よく「東大は愛校心が薄い」などと聞きますが、同窓会活動の中で感じる場面はあるでしょうか?

杉山

よく覚えているのは、ある先輩とお会いして、「東大は群れてはいけない」「群れないのが東大らしさ」だと言われ、活動自体を理解してもらえなかったことです。他の大学を見ると、会社に新入社員が入るとそれぞれの大学の卒業生が大々的に歓迎会を開いてくれるわけです。早稲田は稲門会、一橋は如水会、慶応なら三田会と集まっていますが、東大はそういうのが全然ないですよね。私も民間の会社でしたが、誰が東大の先輩なのかしばらく分かりませんでしたよ。

私は運動部のOBで、しょっちゅう群れてるんですけど。それは例外かなと思います。

島田

非常にデリケートな力学が働いているなと感じます。運動部だとか、学生のときにものすごく思い入れた活動では、同窓であるということで思い切り群れるし、仲間も大事にする。それ以外のところでこのようにならないのは、同じ東大を出たということだけではつながりを強く感じないのだと思います。二つ目のつながりの理由が必要なんです。

今、卒業生向けに「東大セルフ・インベストメント」という生涯学習の企画をやっているのですが、目が覚めるようなことがあったんです。ワークショップスタイルで勉強会を開催したら、参加者同士が全く違う年齢・立場にもかかわらず非常に活発に議論しているんです。そこで刺激を与え合った人たちはすごく仲良くなって、その後もつながっている。デリケートというのは、こんな些細なきっかけでも十分ということです。

――この愛好心に関して何か印象的だったことはありますか?

杉山

副室長を務めているとき、さまざまな大学の同窓会づくりを発表し合うシンポジウムに参加しました。隣はイェール大学の同窓会の会長。イェールは同窓会組織がすごく強くて、寄付を集めるためには、風土も大事ですが、卒業生のネットワークがしっかりしていないとダメだと話していたんです。

その後、IARUという国際研究型大学連合で、同窓会が強固なイェール大学がその取り組みを紹介して回っていたのですが、08年に東大でもワークショップを開催しました。彼らの言葉で一番覚えているのは「I love Yale」という言葉。これが素直に出てくるんです。東大生が「I love Todai」なんて……

島田

聞いたことないですね(笑)

――同窓会組織として見本に成り得るイェール大学ですが、取り組みで取り入れられたところはありますか?

杉山

なかなかまねできないですね。就職のサポートなど、まねしたい活動はたくさんあるのですけど。

でも、彼らもここまでにするのに30年以上という長い歳月をかけているんです。東大はまだまだこれからですから、息長くやっていくことが大事だと思います。

島田

彼らの素晴らしい愛校心の根幹にあるのは、学生時代に卒業生に色濃く面倒を見てもらったことにすごく恩を感じていて、卒業したら、今度は自分が学生に返してあげるという循環です。イェールでは、まず受験を希望している受験生に対して、各地域の卒業生が面接をして、そのメモが大学に送られる。入学の歓迎会なんかも同窓会が用意しますし、その後の学生生活でのメンタリング、就職相談とありとあらゆる面倒を卒業生が見てくれます。

作りたいのはこの循環なんですよ。

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――なるほど。そこまでやってくれれば、誰だって恩を感じますね。

島田

東大の場合まだまだですけど。例えば、今地方から東大を受験する人が少なくなってきていますよね。地方の県人会などの同窓会が、地元の受験生をサポートしたり、入学したら歓迎してあげて、東京での生活のサポートするということはできると思うんですよね。こうした、すぐにでも始められる部分もあると思っています。

杉山

僕は、根本的に卒業生の組織というのは、母校の評判を上げるために支援するという団体であって欲しいと思うんです。同窓会への勧誘をしていて、「寄付が欲しくてやっているのだろう」と言われたことがあります。寄付というのは母校への貢献としては大きな方法ですが、他にもやれることはあるんじゃないかと思います。取りあえず、ホームカミングデイなどで「何かできることはないか」と声を掛けてくれるとうれしいです。

――やはり、寄付金目当てと言われることは多いのですか?

杉山

私が副理事になった当初は130周年事業で大々的に寄付を募っていたこともあり、いろいろな人に会う度に言われていた気がします。でも、何年も言い続けていると、そう言う人は少なくなってきているのは確実ですね。「お金欲しさに来たんだろう?」「はい、そうです」と冗談を飛ばせるくらいには(笑)。

島田

私は1年半この仕事していて、一度も言われたことないですよ。

杉山

少しずつ変化を感じますね。

――その他、特色ある取り組みがあればお聞かせください。

島田

学士会との共同で婚活パーティを開催したのですが、これが非常に評判が良いですね。特に女性だと、一般の出合いの場では出身大学を言い辛いということがあるらしく、「それを気にしなくて良い場を用意してくれて本当にありがたい」といった声も聞かれます。2次会にまで参加する人が6、7割もいて、この中から何組もカップルが生まれているのではないでしょうか。

――さまざまな取り組みをしていますが、気を付けていることはありますか?

島田

まずは、卒業生が大学と接点を持ってもらうことを大事にしています。ホームカミングデイや生涯学習などは、こちらからのそういった場の提供ですよね。こうして、東大卒業生としてのメンバーシップ価値を感じてもらうことが第一です。

そうして大学との絆を持ち始めた卒業生から、在学生の支援をして下さる方が生まれてきたら良いなと思うのです。最たるものは体験活動プログラムですね。特に今後は東大も4ターム制になって時間も取れるようになりますから、何倍にも拡充してゆく必要がある。その受け皿になってくれる卒業生が増えて欲しいです。また学生は、就職だけでなく、人生をどうするかというロールモデルも欲していると思います。それを与えてくれるというのは非常に価値あることだと思うんですよね。卒業生からの貢献の輪が広がっていって欲しいと思います。

イェールの根幹にある循環は30年計画で取り組むべきことです。その序段は既に始まっていると考えていいと思います

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――先ほどもあった通り、10年が経ち、同窓会も赤門学友会から東大校友会と名を変え、一つの大きな節目だと思います。現状感じている手応えや、残っている課題などはありますか?

杉山

「知の創造的摩擦プロジェクト」などで既にやられていますが、卒業生と在学生が触れ合う場というのはまだまだ増やしたいとは思います。

東大の同窓会組織はまだまだこれから。他の大学も時間がかかっていますから、しつこく粘り強く活動を継続していくしかないですね。

島田

「東大セルフ・インベストメント」にしても、婚活パーティにしても、まだまだ対象となる人数規模としては1桁小さいと思っています。最も大きいイベントはホームカミングデイですが、これもまだまだ活気付けられる。今年は、無料ドリンク券の配布や、銀杏並木に多くのお店を出して祭典としての賑わいを生む工夫をするなど、より多くの参加者を集めようとしています。他校のホームカミングデイを見ると、卒業生が自らイベントを作っているんですね。単なる講演会だけでなく、地域の同窓会が特産品を持ち寄って物産展とかやってたり。来るだけでなくて、やる側として楽しむような団体が増えていって欲しいです。

――ずばり、同窓会が大学に対して貢献できることとはなんでしょう?

杉山

先ほど話にあった地方の受験生支援など、東大が今抱えている問題に直接関与できる例ですよね。こういった課題点を大学が発信して、同窓会や卒業生がそれに応えるという関係にもできると思いますね。東大の卒業生はそれだけのものを持っています。

島田

同窓会が、大学が必要とする基盤として明確に認められた存在になってゆくというのが、今後の一つの方向性だと思います。支援の方法はいろいろあるでしょうけど、そもそも、イェールなどは総長選挙に投票権を持つなど、大学の運営そのものに意見する立場にあるんですよ。どうしたら、ここまでになれるか、考えていかないといけません。

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――既に何度も寄付のお話は出ていますが、卒業生からの直接的な支援としてやはり大きなものだと思います。慶應義塾大学などと比して、東大は卒業生からの寄付は少ないですが、どのように考えていますか?

杉山

一朝一夕でできることではありません。寄付をしてくれる人というのは結構固定されていて、何度もしてくれる人もいますが、全くしないという人も多い。今、寄付をしてくれた卒業生は全体の10%に満たないくらいでしょうか。2割、3割と行かずとも、15%くらいには上げたいですね。この寄付をするマインドを育てるには、地道に発信していくしかないと思います。

実際に多くの金額が集まっているのは、小石川植物園や東大球場の人工芝などのプロジェクトです。今行っている安田講堂の改修や新図書館など、やはり多くの人が関心持つようなものは寄付が集まっています。卒業生から見て魅力的な事業を作るというのも大事な方法です。

島田

この仕事に関わる前、赤門学友会の会報の寄付のお願いを見て、「東大って国から一番お金をもらってる大学なのに、なんで寄付が必要なの?」と素朴な疑問を持ったのを憶えています。法人化以後、国の運営費交付金が毎年どれだけ減らされているのかなど、そういう知識がまったくなかったからですよね。今の東大について状況をよく知ると、だいぶ見方が変わってくるのではないでしょうか。

寄付をするマインドという点では、イェールの方も言っていたのですが、学生の頃から、5ドルでいいから寄付をさせるというように、習慣化も大事なんだろうなと思います。

――今後のビジョンやメッセージをお願いします

杉山 今年、地域同窓会が全国全ての都道府県に発足し、一つの大きな目標を達成します。これからは、いかに彼ら卒業生を大学に近づけていくかというところですね。

この10年はネットワーク作りの10年。次の10年は、群れよう、話そう、一緒にやろうぜ、僕はこんな感じの10年にしたいな。

島田 卒業生の皆さんへメッセージです。各地域に同窓会がありますので、まず顔を出してみてはいかがでしょうか。また、TFTにもぜひご登録ください。メールマガジンでイベントの告知などさまざまな情報をお送りしますし、大学時代の友人なども探すことができます。

まずはこれらを通して、大学との距離を身近に感じてもらえればと思います。

杉山 健一(すぎやま けんいち)さん
東京大学 監事
71年工学系研究科修士課程修了。07年より副理事などを務め、14年4月より現職

島田 久弥(しまだ ひさや)さん
東京大学 卒業生室 副室長
85年農学部卒。昨年度から卒業生室の活動に携わり、14年4月から副室長を務める

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