学術ニュース

2020年8月8日

RNAが多様に分化 生命誕生の謎解く鍵に

 古林太郎博士研究員(フランス国立科学研究センター)、市橋伯一教授(東大大学院総合文化研究科)らは、遺伝情報を記録するRNA分子が、寄生型RNAの発生により多様な種類へと分化することを発見した。研究者らは、物質から生命への進化の鍵が寄生体との共進化にあるのではと考えている。

 

 今回の研究は、RNA集団の遺伝的組成が変化するという進化生物学的な意味での「進化」が非生物の分子からなるシステムで再現された初めての例。単一のRNAから実験を開始し、長期間の自己複製を経て複雑な分子の生態系が生まれることが確認された。これまでも他のグループが同様の実験を行ってきたが、どれも最も速く増える分子が集団を占有し、進化がすぐに止まってしまっていた。

 

今回の実験の模式図。油中水滴を希釈しRNAの複製を続ける

 

 この研究では従来の実験にない要素として、RNAに記録された遺伝子をタンパク質に翻訳する無細胞翻訳反応液が用いられた。その結果、複製を続けるうちに他のRNAに依存して増える寄生型の短いRNAの出現が確認されたという。

 

 寄生型RNAの発生から約300世代に及ぶ長期間の進化実験を行ったところ、元の寄生体とは大きさの異なる新型の寄生体も出現することを発見。寄生体と宿主に当たるRNAが互いに相手に対しより強くなるように共進化する進化的軍拡競争が起きることも発見された。

 

 共進化により宿主RNAが多種類の系列に分化する一方で、次世代の宿主・寄生体が生まれた後も元のタイプは絶滅することなくある程度の割合で存在し続けた。宿主RNAと寄生体RNAの進化はさらに300世代以上にわたり続き、現在も継続中だという。


この記事は2020年8月4日号から転載したものです。本紙では他にもオリジナルの記事を掲載しています。

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