COLUMN 2018年3月29日

「当たり前」の目標並ぶSDGs 朝日新聞が大々的に推進するわけとは

 2015年に国連サミットで採択されて以降、世界で推進されているSDGs──持続可能な開発目標。「1.貧困をなくそう」「8.働きがいも経済成長も」など、17分野の目標を掲げる。民間企業が続々とSDGsに向けた取り組みを始め、耳にする機会も増えた。その中で朝日新聞社は「2030 SDGsで変える」という企画を紙面で伝える他、特設サイトを開設している。SDGsの解決策を考えるリアルイベントを開催し、SDGsに関する過去記事を紹介した冊子も発行するなど、大々的なキャンペーンでSDGsを推進している。

 

17目標のロゴ

 SDGsの目標はどれも素晴らしい。しかし一見すると、それらは問題意識がすでに広く共有された「当たり前」のものばかりにも感じられる。当然貧困はなくすことが望ましいし、働きがいと経済成長を両立できればもちろん物質的・精神的に豊かな暮らしを送れるだろう。そんな「当たり前」のことをなぜ大々的に推進するのか。朝日新聞社で推進キャンペーンの取りまとめを担う石田一郎・マーケティング本部長に聞いた。

(取材・児玉祐基 撮影・石井達也)

 

石田一郎さん

 

身近な話題で自分ごとに 浸透しつつあるSDGs

 

 朝日新聞社では17年1月から、SDGsを推進するキャンペーンを開始。石田さんには当初「SDGs(エスディージーズ)の読み方すら分かっていただけないのではないか」と認知度への不安があった。その不安は当たり、すでにSDGsに向けた取り組みを始めていた官庁やNPOからの反応は上々だった一方で、読者からは「何の英語の略か分かりにくい」「ルビを振ってほしい」との問い合わせもあった。

 

SDGsの特設サイト

 

 しかし、継続的に発信する中でSDGsへの反応が変わり始めたと石田さんは話す。17年9月にSDGsやSDGsに向けた取り組みを紹介する冊子を発行したところ「学校や自治体、企業から『うちにも欲しい』という問い合わせをいただきました」。生徒の半分が外国籍のある小学校の校長からは「保護者と多様性について考えるための教材にぴったり」と送付の依頼があった。

 

 これまでの特集の中で、ネット上で大きな反響を呼んだ記事がある。17年3月の「『捨てないパン屋』の挑戦 休みも増えて売り上げも維持」だ。長時間労働と、売れ残ったパンを捨てることに疑問を抱いたパン職人の夫妻がウィーンの職人に倣い、パンの種類や具材を減らす代わりに素材にこだわった。すると売り上げを落とさずに「捨てない、働き過ぎないパン屋」への変貌を遂げたと記事は伝える。この記事は、webサイト「朝日新聞デジタル」で公開後1カ月たっても拡散が続いたという。どの街にもある「パン屋」の改革を通してSDGsを見ることで「SDGsを自分ごととして捉えていただくきっかけになったのではないでしょうか」と石田さんは語る。この記事を契機に、「海外では~」「地球環境が~」といった話題に加えて、読者に身近な題材を取り上げて伝えることの大事さが再認識されたという。

 

 

ものさしとして、接着剤として

 

 キャンペーン開始当初は、記事で紹介するそれぞれの取り組みに17分野の目標のロゴが一つずつ付くのかなと考えていた石田さん。しかしキャンペーンを進める中で、実際は一つの取り組みが、同時にいくつもの目標に向けた取り組みになっていることに気付いたという。「世の中の課題やそれを克服するための取り組みは、SDGsの枠組みを念頭に置くことでさまざまな角度から複眼的に分析できます」。逆に、例えば「8.働きがいも経済成長も」に向けた取り組みが、「14.海の豊かさを守ろう」に反することもある。SDGsの枠組みはそのような負の相関へも目を向けさせるきっかけとなる。「SDGsは『新しいものさし』なのです」

 一つの取り組みが異なる目標に関わっているケースだけでなく、異なる課題の解決を目指す異なる取り組みが、実際はどちらも一つの目標に関わっていることもある。実際、朝日新聞社が紹介する取り組みにも、同じロゴが何度も出現。SDGsのフレームワークがあることで、一見別々に解決すればよいと思われてきた課題が、実は根っこのところで課題を共有していることに気付きやすくなる。根本的な課題が同じなら「複数の取り組み間で解決策を共有することも可能になるでしょう」と石田さんは予想する。

 

 SDGsは新しいものさしであると同時に「人と人をつなぐ接着剤でもあります」。SDGsに取り組んでいる人、取り組もうとしている人にとってSDGsは、共に課題解決を目指す仲間を見つけるための格好の合言葉だ。仲間を見つけやすくなることで、課題解決のスピードアップにつながる。また「当たり前」の目標が並んでいるからこそ誰にでも受け入れられやすく、多くの人を巻き込みやすい。このように、SDGsは個々の目標の価値に加えて「ものさし」「接着剤」としての働きを持っているというわけだ。

 「想定より早く浸透している」とSDGsの推進に手応えをつかむ一方、「まだ3割くらいの認知度でしょう。まだまだ足りない」と石田さん。SDGsの17目標は一般市民にとって「当たり前」である上、「3.すべての人に健康と福祉を」「11.住み続けられるまちづくりを」など、国家や企業が実践の主体となりやすいものが並び、どうしても遠い存在になりがちだ。一般市民に直接リーチできる存在である朝日新聞社は、これからもSDGsを自分ごとに捉えられる記事を持続的に発信できるのか、注目だ。

 

同じ記者の記事

関連記事

合わせて読みたい

COLUMN 2018年01月02日

【N高生のリアル⑩】生徒の人生にホームを作る N高サッカー部が目指しているもの

NEWS 2017年01月17日

東大生のプライドの根源とは? 工学部が講演会を実施

NEWS 2016年07月21日

理Ⅲ面接は入試3日目に人間的成熟度などを評価 東大が入試に関する記者会見を開催

EVENT 2016年06月06日

「アクティブ・ラーニング」で教育はどう変わる? シンポジウムを6月17日に開催

INTERVIEW / OBOG 2015年12月14日

ノブレス・オブリージュだけでは社会課題は解決できない リディラバ安部敏樹さん1

TOPに戻る