COLUMN 2019年11月4日

【細胞農業連載】① 培養肉とは?〜細胞農業による食料生産〜

 この連載は、近年存在感を高めつつある「細胞農業」に関係した活動に携わる山口尚人さん(理・3年)に、細胞農業の特徴や魅力、可能性について寄稿してもらう連載企画です。

(寄稿)


 はじめまして。理学部生物情報科学科3年の山口尚人です。近年注目を集める「細胞農業」という分野に興味があり、それに関わる様々な活動をしています。今回の「細胞農業」という分野に関する連載で、今まで馴染みのなかった人に興味を持ってもらい、聞いたことあった人にもより深く知ってもらうことができたらと思います。

 

 皆さんは「細胞農業」という言葉はご存知でしょうか?恐らくほとんどの人が耳にしたことがないでしょう。では、「培養肉」もしくは「人工肉」はどうでしょうか?これなら聞いたことがあるという人もいると思います。一方、聞いたことはあってもどういうものか詳しくは知らないという方が大半なのではないでしょうか。

 

 そんな皆さんにあまり馴染みのない「培養肉」そして「細胞農業」についてお話したいと思います。

 

「本物」の肉、培養肉

 

 いきなり培養肉と言われてもピンとこない方もいるかもしれないので、具体的な例から見ていきましょう。

 

写真左:Photo by MosaMeat、写真右:Photo by Integriculture, Inc

 

 これは、左からミンチ肉、フォアグラです。どちらも“本物”の肉です。本物の肉、なのですが、動物を屠殺場で殺して調理した肉ではありません。これは「細胞培養」という技術を用いて実験室で作られた肉なのです。

 

 ざっくり言うと、

細胞 = 体を構成する基本単位、

培養 = 細胞に栄養を与えて育てること、

です。

 

 牛や豚から採取した筋肉細胞を培養して上手に増やすと我々が普段食べているミンチ肉やステーキ肉のようになりますし、鶏の肝臓細胞をとってきて上手く培養するとフォアグラになります。今まで動物を育てて出来上がった肉を食べていましたが、培養肉では発想が異なり、動物からとってきた細胞を動物の体外で育ててそれを肉として食べるということです。このようにして作られたのが上の写真に写っている肉なのです。

 

 1枚目の写真は、オランダのマーストリヒト大学のマークポスト教授らによって2013年に発表された世界初の培養ミンチ肉です(しかし、この200gのミンチ肉の価格は研究費込みで2800万円…)。2枚目の写真は日本発のスタートアップ、Integriculture, Inc.が2019年8月に発表した培養フォアグラです。とても美味しそうです。実際、これらの肉は一流のシェフによって調理され試食会が行われたそうですが、とても美味しかったらしいです。(食べてみたい…)

 

培養は身近なもの!

 

 やはり何か不気味に思う人もいるかもしれませんが、この技術は特段驚くほどのものではありません。

 

 培養(=細胞を育てる)操作は、生物学や医学などの研究において日常的に使われているものです。何か魔法をかけている訳でもありません。これは、生物の力を利用したものなのです。

 

 家庭菜園に馴染みのある人ならわかるかもしれませんが、豆苗やネギの根っこを水に浸すとまた育ってきて、再度収穫できることがありますよね。再生野菜(リボーンベジタブル)と呼ぶらしいのですが、培養肉でやっていることのイメージはこれに大変近いです。これらの野菜は水につけておくだけですが、肉の場合は、細胞が育つために必要な栄養が揃った環境で培養することで、同じように育て増やすことができます。

 

 生物の力を利用したもう1つのわかりやすい例として「発酵」が挙げられます。発酵とは、目に見えない微生物が食べ物など有機物を分解し、人間にとって有益なものになることです。人間にとってマイナスなものになる場合は腐敗と呼ばれることが多いです(実は発酵と腐敗の分類は人間の主観によるものなのです)。人間は長い歴史の中で、「人間に有益な微生物」を見つけ、その微生物たちが働ける環境をつくる技術を開発してきました。ヨーグルトの乳酸菌、パンのイースト菌がその代表例でしょうか。ご存知の通り日本は発酵大国であり、醤油、納豆、お酒、パン、チーズ、ヨーグルトなど発酵によって作られた美味しい食べ物を日常的に食べています。

 

 こう見てみると、生物の力を利用し食料を生産することははるか昔からやられてきたことであり、我々日本人も比較的馴染みの深いものであるはずです。

 

細胞農業とは?

 

画像はShojinmeat Projectより提供。

 

 ここまでの話を含めて整理してみます。

 

 人類がこれまでの歴史で用いてきた食料供給方法は大きく分けて5つあります。

 

 狩猟、栽培、飼育、合成、発酵(醸造)

 

 そして、これに加わる第6の食料生産方法が、今回紹介した「培養」なのです。この培養を利用して、食品(肉、牛乳、卵、魚など)や革製品、それに関わる風味、芳香などを作り出すことを目指す分野が細胞農業なのです。そのため、細胞農業の対象は牛や鶏の肉だけにとどまりません。エビなどの魚介類だったり酵母を培養してタンパク質を作らせることで、普通の牛乳や卵と分子レベルで同じタンパク質を作ることができます。

 

 このように、食料や生体物質に関わる製品の新しい生産方法が細胞農業であり、その中の1つである培養肉が最近注目を集めているのです。

 

 次回は、細胞農業が注目される理由について世界の代替タンパク質市場の現状と共に考えたいと思います。

 

画像出典

Mosa Meat website 

Integriculture website

Shojinmeat Project slideshare 純肉:細胞培養による食料生産(2019版)

【記事修正】2019年11月5日12時40分 一部誤字と画像の出典について訂正しました。

同じ記者の記事

関連記事

合わせて読みたい

EVENT 2017年11月11日

違う! やるか、やらぬかだ。試しなど要らん。 HACKER WARSで過ごす2日間

COLUMN 2019年10月03日

【研究室散歩】@海上貿易史 島田竜登准教授 史料と向き合う喜び胸に研究

COLUMN 2019年11月01日

【東大教員と考える日本の問題②】日本社会と外国人「違い」前提に移民と共存

NEWS 2014年06月17日

ドワンゴ川上会長「大学は、教育ではなく研究をしてほしい」

NEWS 2016年06月09日

「あなたの研究の強みは?」論文の要旨を書く集中講義、6月6日から開講

TOPに戻る