COLUMN 2016年10月29日

ロサンゼルスでドキュメンタリー制作 引率教員が見た学生の成長

 知らない者同士で3人1組のチームを組んで、ドキュメンタリーをつくる。しかも、ロサンゼルスで。

 

 アメリカ・ロサンゼルスの東大同窓会(南加東大会)は、毎年、学部生を呼び寄せ、ドキュメンタリー制作の体験をさせてくれています。本記事は、ロサンゼルスでの海外体験活動プログラムについての連載記事(後編)です。後編では、引率教員の目から学生の様子を観察して感じたこと、また、東大生として海外渡航のチャンスをどう捉えるか、書いてみたいと思います。

 

この記事は、板津木綿子准教授(総合文化研究科)による寄稿です。

前編→ 「人間を自由にする大学教育」 東大の体験活動「ドキュメンタリー制作」の理念とは?

 

【栄養満点の土壌、成長も加速】

 知らない者同士で3人1組のチームを組んで、ドキュメンタリーをつくる。しかも、ロサンゼルスで。テーマの選択、ロサンゼルスの取材者とのアポ取り、撮影、編集、一から十まですべて自分たちでやる。授業やアルバイトなどいろいろ忙しい中、6月に事前研修がはじまり、翌年1月までの8ヶ月間ほどかけて完成させる。大変な労力だけど、それだけに学生の伸びしろの大いに見込めるプログラムだ。

 

 このプログラムに過去3年間引率教員としてたずさわる機会をもらって、気づいた学生たちの成長を紹介したい。

 

【へこたれない耐性】

 学生はロサンゼルスで悔しい思いをたくさんする。英語でうまく言いたいことが伝えられない。取材依頼を送っても返事がない。取材でおじゃまするお宅で段取りがうまくいかない。街頭インタビューで、取材を断られる。同窓会の集まりなどで、「歓談」がうまくできない。一緒にチーム組んでいる人たちと考えを一致させることができない。取材中、チームメンバーと阿吽(あうん)の呼吸ができずに、ストレスを感じる。

 

figure3

 

 初めて経験する作業が多いので、上手な対応が分からないのだが、そのような状況に置かれても、へこたれない。あきらめない。仲間がいるから、たがいにサポートできるということもあるかもしれないが、ロサンゼルスでの滞在日数と収録可能な時間が限られている中で、粘り強くがんばる力を磨いている。

 

 また悔しい思いを口外しないで一人で考えたり、アドバイスを求めたり、いろいろな形で対応しているが、チームメンバーと「こういうところを明日は注意しよう」と言葉で明確に表現できるのは素晴らしい。

 

 仮に参加者全員が日本人であっても、こういった議論やコンセンサス形成をするのは難しいのに、PEAK生と4月生の合同チームもこれまで結成されてきた。日本語を勉強中のPEAK生にとっては、「生きた日本語」を使用する機会だし、4月生にとっては「実践英語」を使う絶好の機会である。いずれにしても、日本語と英語を駆使しながら、共通目標であるドキュメンタリーの完成を目指す。この際、日本人の学生は、構想のニュアンスを伝えることに苦労し、意見が異なるときに相手に譲歩したくなる。そのほうが簡単だから。ただ、将来、仕事中に外国人との交渉をする場面に遭遇する可能性があるわけで、その交渉相手は、まさにPEAK生のような人たちだ。会社や国家など組織を代表して交渉するとなると、簡単に譲歩するわけにはいかず、互いに歩み寄れる中間地点を探らなければならない。こういう苦労や訓練もドキュメンタリー制作の中に織り込まれている。

 

 そもそも耐性のある学生が参加している可能性もあるが、予期せぬトラブルにも知恵を合わせてなんとか対処しようとする力は、たった一週間でも経験値と共に増強される。

 

【振り返る力】

 耐性が増強する秘訣は、振り返る力。ロサンゼルス滞在中、うまく行ったこと、うまく行かなかったことを毎日振り返るように促したが、それがここまで奏功するとは正直思わなかった。うまく行かなかったことは、その原因を考えて、それに基づいて軌道修正の方法を考える。その力が、磨かれた。理論と実践の間で落としどころを見つけるのは難しいが、試行錯誤しながらも、経験の蓄積で一つずつクリアしていったのは、さすが東大生だと思わされる。

 

【大人としての立ち居ふるまいと気づかい】

 ロサンゼルスで、学生達がなによりも苦労するのが、異なる境遇の人と交流すること。言葉が違うために困ることがあるのは当たり前ですが、同じ日本語が話せる人でも、世代の違う人、同世代でも経歴が違う人、こういう人たちに歩み寄って話をすることが苦手。

 

 取材するお宅にお邪魔したときに、「おじゃまします」は言えても、次のフレーズ「お忙しいところ、時間を割いていただき、ありがとうございます」が言えない。飾ってあるものを見ながら「素敵な写真ですね」と言ったり、写真を撮った経緯を訊ねながら、取材する方に心を開いてもらうのが大事。それが最初はできない。

 

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 オトナの人が聞いてくれた質問には、立派に答える。さすが、よく考えているな、と感心することはしばしば。でも、逆に、相手に質問することができない。イマジネーションが働かないのか、関心がないのか、青年期特有の恥ずかしさからか。

 

 でも、ロサンゼルスから帰るときまでには、周りのオトナの人たちの行動を観察して、大人としての振る舞い、気遣い、礼儀ができるようになる学生が何人かいた。ロサンゼルスで出会う大人たちの優しさや模範が、誘い水の役割を果たしているのだ。

 

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 謝金も出ない学生企画なのに取材に応じてくださる方達は、教育的な趣旨に賛同し、かつ実際に時間を割いてくださる尊い心をもっていらっしゃる大人。こういう素晴らしい大人に手本を示してもらえるロサンゼルスは、参加学生の成長を促す肥沃(ひよく)な土壌になっている。

 

【読者のみなさんもぜひ!】

 ロサンゼルスの本企画は、大学が実施している体験活動プログラムの1つに過ぎない。毎年100を超える企画が国内研修、海外研修、研究室体験として提供されている。海外であれ、国内であれ、日常と異なる経験をすることで得る知識や経験は無限大にあり得る。自分の関心ごとの追究や自身の見つめ直しをすることで、情熱を持てることを見つけてほしい。

 

【体験活動プログラムについてもっと知りたい方へ】

ウェブサイト: http://www.u-tokyo.ac.jp/stu01/h19_j.html 
Facebook: https://www.facebook.com/UTokyo-Hands-on-Activity-199334930268654/ 
Twitter: https://twitter.com/utokyotaiken

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