報道特集

2019年10月7日

待遇改善の道半ば 非常勤講師雇用今年から制度変更 常勤との格差課題【東大の非常勤講師㊦】

 

 今年1月、東京大学教職員組合(東職)と首都圏大学非常勤講師組合は記者会見を開き、非常勤講師が無期雇用への転換を申し込める通算契約期間が10年から5年に変更されたことを発表した。前回は東大に変化の理由について聞いた。今回は、東大に非常勤講師の待遇改善を呼び掛けていた、東職と首都圏大学非常勤講師組合に今回の一連の経緯について振り返ってもらった。

(取材・山中亮人)

 

【東大の非常勤講師㊤】より続く

世界最高水準の教育にふさわしい制度 非常勤講師の「働き方改革」【東大の非常勤講師㊤】

 

佐々木 彈(ささき だん)教授(社会科学研究所)
松村 比奈子(まつむら ひなこ)さん(首都圏大学非常勤講師組合)

 

 

 「マイナスをゼロにしたまでで、当たり前のことをしただけ」。今年非常勤講師の無期転換までの通算契約年数が10年から5年に変わったことを振り返り、東職の副委員長を務める佐々木彈教授(社会科学研究所)は話す。

 東職と首都圏大学非常勤講師組合は共同で二つの問題に挑んでいた。一つ目は東大が非常勤講師の直接雇用をしていなかったこと、二つ目は無期転換までの通算契約年数が法律上5年であるのに不正に10年での運用を続けていたことだ。

 

 一つ目に関して「事の発端は国立大学法人化にまでさかのぼる」と佐々木教授。04年の国立大学法人化の過程で大学の教職員は公務員から被雇用者の扱いになる。今まで大学は教職員を任用していたが、法人化以降は雇用することになるため、雇用契約を結ばなければならない。学校教育法にも、大学が授業に責任を持つためには、非常勤講師を直接雇用し、指揮命令権を確保する必要があることが示されている。

 

 しかし、実際に東大が非常勤講師と結んでいたのは業務請負契約。雇用契約とは異なり、業務請負契約では労働基準法などの労働関係法令は適用されないため、労働者災害補償保険なども適用されない。東職がこれに気付いたのは17年。東大に勤めた非常勤講師は自らの身分を証明する文書も存在しない状況だった。「非常勤講師は『モノ扱い』同然だった」と佐々木教授は振り返る。

 

 東大に非常勤講師と直接雇用を結ぶことを呼び掛けた結果、東大は18年度から雇用契約に切り替えた。

 

 二つ目に関しては、13年に改正された労働契約法で、通算5年を超える有期労働契約で働く教職員は、無期契約へ転換できることが定められていた。しかし東大は、雇用契約のあった教職員(つまり非常勤講師以外)についても、5年間の雇用契約の末、最低6カ月以上雇用を停止した後に再契約することで、無期雇用への転換ができなくなる通称「クーリング」ルールを運用していた。この制度も東職の呼び掛けにより、18年度から運用がされなくなった。

 

 東大は18年度秋に就業規則を、非常勤講師に対し通算10年の雇用契約を経なければ無期雇用への転換ができないと改定。東職は反対し、今年1月の記者会見で通算5年での運用を発表した。

 

 現状の問題点として東職と首都圏大学非常勤講師組合は、3点を挙げる。

 一つ目は東大が1セメスターのみ担当する非常勤講師と契約するとき、半年のみの契約をしていること。「1年のうち半年分を担当するという契約なので1年契約と解すべき」と首都圏大学非常勤講師組合の松村比奈子元委員長は話す。

 

 二つ目は特任専門職員などの主に学術研究に携わる専門職員については、依然として「研究開発力強化法(現在は科学技術・イノベーション創出の活性化に関する法律)」の「特例」に準じて10年での無期転換が運用されていること。「あくまでも特例なので積極的に利用すべきでない」と松村元委員長。

 

 三つ目は非常勤講師の研究リソースへのアクセスの確保が不十分なこと。図書館の入館が制限されることが多いという。

 

 一連の変化を踏まえ両組合は「東大は『企業価値』を考えるようになった。今後も制度の是正に向けて取り組んでいく」と締めた。


この記事は2019年9月24日号から転載したものです。本紙では他にもオリジナルの記事を公開しています。

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