INTERVIEW / FEATURE 2018年10月1日

【若き研究者たち②】松藤圭亮さん 研究者の人生はマラソン、寄り道しゴールを探す

 1、2年次を前期教養学部で勉強する東大生にとって、学問分野の専門的な学習・研究を始めるのは進学選択後からが一般的だ。しかし中には大学入学以前や1年次から、授業や研究施設を利用し自主的に高度な研究を進める学生もいる。そんな彼らに、研究のきっかけや内容、醍醐味(だいごみ)を聞いた。

 

 2人目は、松藤圭亮さん(理I・2年)。中学生の時に地元の福岡県から本郷キャンパスを訪れ、「東大卒なら研究者として活躍できる場が世界中に広がりそう」と東大を志望した。1年生の後期の授業をきっかけに研究室へ通い始めるも、半年ほどで「研究をいったん終わり」にすると決断。2018年7月、その決心を裏付ける、前期課程中に研究に打ち込んで悟ったことを聞いた。

(取材・撮影 武沙佑美)

 

 

研究の面白さに目覚めた、前期教養時代

 

 2018年5月。「実験していったら、こういう結果になったんです」と見せてくれたのは、パソコンの壁紙となっているグラフだった。松藤さんは、液体中の金属イオンやタンパク質などの分子を識別する有機トランジスタの作製と改良に取り組んでいた。

 

 1年生のAセメスターに、化学生命工学科の研究室で最先端の研究を体験するゼミを履修。小学生の頃から電池や電気回路を扱うのが好きだったこともあり、南豪(つよし)講師(生産技術研究所)主宰の研究室で学ぶことを選んだ。南研究室は分子を認識する新たなセンサーデバイスとして、小さく軽量な有機トランジスタ型センサーを開発中だ。実用化すれば、途上国での安価な水質調査などの実現が期待される。

 

 研究室配属後、松藤さんは実際に有機トランジスタを作製。デバイスの構造や特徴を学びながら、どのような分子の認識に適しているか考えた。他の学生との話し合いや実験を重ね、2018年1月のゼミの成果発表会で、金属イオンに対してセンサー機能を発揮する有機トランジスタについて発表した。

 

一つ一つの素子が、作製したトランジスタになっている(写真は松藤さん提供)

 

 ゼミは1月までだったが、松藤さんは2年生のSセメスターも週2回程度、個人的に南研究室に通い、放課後の4~5時間を過ごした。研究生は10人前後と少ないが、実験器具や試薬が多々そろい「いろいろ試せて楽しかったです」。南講師をはじめ院生や実習生と交流でき、実験ノートの取り方や実験の作法、器具の扱い方といった、研究者としての心構えを学ぶ機会も多かった。「グラフに1本の線を引く、たったそれだけの作業の裏にも10回、20回の実験がありました」と苦労を語る一方、「中国からの留学生もいるので、第二外国語で学ぶ中国語を使ってみたい」と積極的だった。

 

研究室オリジナルの装置で、トランジスタの特性を評価する。「金の電極に針を当てる瞬間が、一番ドキドキしますね」(写真は松藤さん提供)

 

 とはいえ、研究室にこもり切ることは決してなかった。以前より「どこにでも手軽に設置できる、サランラップみたいな太陽光パネルを作りたいんです」と、いつかは太陽電池の研究がしたいと考えていた松藤さんだが、研究分野を早くに絞ることはしたくないという。入学して以来「せっかく教養学部にいるので、いろんな学科の人から多様な方面の知識や考え方を吸収したい」と、太陽電池のみならず筋肉の研究者、プロダクトデザイナーなど、20人以上の東大の教授や専門家のもとへ足を運んだ。

 

「研究は、いったん終わり」 転機は教授の一言

 

 だが、「実は6月ころから、これからも研究室に通い続けるか迷っていたんです」と打ち明ける松藤さん。そもそも前期教養課程のうちから研究室に入ったのは、早く研究がやりたいという気持ちと共に、焦りがあった。「東大は前期教養課程が2年間あるので、研究室への配属は4年次と、他大より1年遅いのです」。半年以上通い続けた研究室では一通りの研究の作法を体験できたが、その背景にはTA(ティーチング・アシスタント)らの手厚いサポートがあった。「私がやっていた研究はいわば、すでに献立が決まった料理を一緒に作らせてもらっていたようなもので、自分が献立から考えられるようになるのは、後期課程で、座学の授業も受けて専門知識を身に付けてからだと感じたんです」

 

 悩む中、ある理学部の教授との出会いが、研究室に通う日々を一変させた。教授の研究分野について話を聞くために教授の下へ足を運んだ松藤さんが、自らの研究との向き合い方について迷いを打ち明けると、教授はこう言った。

 

 「研究者の人生はマラソンだ」

 

 研究職につけば、人生の40年くらいは研究に費やすことになるが、研究は決して楽しいことばかりではない。大変さにより意気消沈したりスランプに陥ったりすることもしばしばだ。好奇心が燃え尽きてしまう可能性もあり、早い段階から研究を始めることは必ずしも良いことばかりではない。「君の時間は限られているのだから、今のうちはいろいろなことに挑戦して、自分は何者なのか、自分は何が好きで何が得意なのかを知ったほうがいい、と言われました」と振り返る松藤さんは、親身に語ってくれた教授の話に思わず涙してしまったそうだ。「教授のおかげで、研究はいったん終わりにしよう、と決心することができました」

 

 

1年生のうちから人に会って、研究室に行ってみてほしい

 

 東大で濃密な1年半を過ごしてきた松藤さんは、今後進路を決める学生に対し、「早い段階からいろいろな人に会いに行き、研究室などへも足を運んでほしいです」と力説する。現場を見て雰囲気を感じていくうちに、自分が何が好きなのか分かってくるという。

 

 特に進学選択を控えた東大の1年生に対して松藤さんは、研究室にとって前期教養学部生は将来の研究生候補であり「その立場を生かして教授に会いたいと言えば、100%会ってくれるはずです」と後押しする。松藤さん自身、20もの研究室を訪れ、部屋の雰囲気や整理整頓の度合いまで目の当たりにし、講義中とは違った印象を受けた教授もいたと明かす。進学先について迷う時期は必要だが、自分の成績や学科の評判だけで決めるのではなく、興味に従って決めるのが最善だ。「東大の前期課程の学生という立場を生かして、いろいろなものを見てきてください」

 

松藤圭亮(まつふじ・けいすけ)さん

理科Ⅰ類2年

 

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