INTERVIEW / OBOG 2018年8月11日

【東大2019①】国連広報センター所長 根本かおるさんインタビュー

 法学部を卒業した後、アナウンサーや報道記者、UNHCR(国連難民高等弁務官事務所)職員など、多彩な現場において第一線で活躍を続ける根本かおるさん。現在は国連広報センターで所長を務め、「持続可能な開発のための2030アジェンダ」(通称「SDGs」)の周知に尽力する。根本さんは親元を離れることを夢見る受験生時代を経て、自由を満喫しつつも「東大女子」という少数派の立場を痛感させられる学生生活を送った。受験科目として選んだ世界史の学びは「現在進行形」だという根本さんに、受験生時代、東大での学生生活や今までのキャリアについて、また受験生へのメッセージを聞いた。

 

 

自ら考え、道を切り開く力を育んだ東大での学生生活

 

──どのような受験生時代を過ごしましたか

 高3の秋まで部活動をしていたので、受験勉強は主に週末にしていました。東大を選択する出発点となったのは、親元から離れて東京に出たいという気持ちです。東大と東京の私大1校を受験しましたが、私大の試験の出来が悪かったと思い、帰りの新幹線の中で窓の外を見ながら泣いていたことを覚えています。

 

 私大の結果発表の翌日が東大の2次試験だったのですが、予想外に私大に合格していたおかげで少しリラックスして東大を受験することができました。試験会場は駒場Ⅰキャンパスの1号館で、歴史の重みを感じながら試験を受けたことを記憶しています。

 

──入学して抱いた東大や東大生の印象は

 私は全科類の既修ドイツ語・フランス語選択者のクラスだったのですが、我が道を行く人が多く、クラスとしてのまとまりはほとんどありませんでした。女子はおよそ30人中2人で文Ⅰは私だけ。おのずと1人で行動する癖が付き、自分で物を考えて道を切り開く力が育まれたと思います。法学部でも600人中女子は25人と、4年間を通してマイノリティーの悲哀のようなものを感じ続けていましたね。

 

──学生生活を振り返って、心に残った授業や活動などはありますか

 大学では1人暮らしを始め、自由を満喫しました。東大音感というサークルに入っていて、ボーカルとしてステージで歌うのはとても楽しかったです。学外ではラジオの深夜番組をナビゲートする機会に恵まれました。表現することに興味を持つきっかけとなり、後のキャリアにも影響したと感じています。

 

 授業に関しては、本郷でマイノリティーの権利に関するゼミに入ったことが、後の難民支援活動につながったのではないかと思います。学内で女子という少数の立場にあったことへの意識が大きかったのかもしれません。

 

──学生生活を振り返って、やっておけば良かったことは

 もっと留学生、特にアジア出身の学生と交流しておけば良かったですね。近隣のアジア諸国から見た日本の印象や国内情勢について、生の声を聴ける貴重な機会をもっと活用すべきでした。普段、私たちはおのずと欧米の先進国の視点から現代社会を認識し歴史を学んでいますが、留学生と対話することでもっと視野を広げられたのに、と思います。

 

 

留学先での学びを踏まえ、難民支援活動に貢献

 

──卒業後はアナウンサーや報道記者を経てコロンビア大学大学院に進学しました。その経緯は

 報道局の政治経済部に配属されていたころ、日米貿易摩擦を担当する機会がありました。しかし、特別米国に詳しいわけでもないのにしたり顔をして報道することにふがいなさを覚えたのです。加えて、冷戦後唯一の超大国となった米国にじかに触れて専門性を身に付けることは、職業人としてやっていく上で大切なことだと感じ、留学を決意。仕事は辞めたくなかったので、役員に直談判し、仕事を辞めずに留学できる制度を作ってもらいました。

 

──留学のテーマはどのようなものだったのでしょう

 国際人権や人道問題でした。マスコミで働く中で、政策決定の過程でこぼれ落ちる声、表に届かない声が存在することへの問題意識が高まっていたからです。また、私自身が当時報道の世界で圧倒的マイノリティーである女性記者として経験した苦労も背景にあったと思います。当時はセクハラやパワハラのようなことも許される時代で、意見を述べるときも常に男性の反感を買わないようにしなければいけませんでしたから。

 

──大学院修了後UNHCRで働こうと思った理由は

 大学院での学びを踏まえて究極のマイノリティーである難民を支援したかったからです。特に留学中にインターンをしたネパールの難民キャンプでの経験も大きかったですね。キャンプで出会ったあるネパール系ブータン難民の女性は、地位や財産を奪われてブータンから逃れながらも、「ネパール系ブータン人としての誇りを受け継ぐには教育が必要」という思いから、彼女たちが中心になってキャンプの中に学校を設立したのです。私は彼女の気高さと努力に胸を打たれ、難民に内在する生き抜く力を感じました。

 

──難民支援活動の具体的な内容は

 初めは、難民認定審査を行う保護官としてトルコの首都アンカラに派遣され、イラク・イランなどから越境して避難してきた人々の聞き取り調査をしました。保護すべき難民かどうかの判断には対象者の命が懸かっていますから、保護官が判断を誤ることは許されません。同時に、人々の身の上話に四六時中耳を傾けていると、痛みに対して心の慣れというものが生じてしまい、相手に共感できなくなることもある。そうならないための心の管理にも気を配っていました。

 

 その後はアフリカやコソボの紛争地帯、UNHCRのジュネーブ本部で働き、現場での難民支援のみならず難民保護政策の取りまとめや民間からの資金調達にも携わりました。

 

──現在、国連広報センター所長として取り組んでいることは

 力を入れているのは「持続可能な開発のための2030アジェンダ」、通称SDGsの周知です。このままでは地球が持たないという危機感から生まれ、私たちを取り巻く課題を360度から捉えた17の目標から成る世界共通の座標軸です。学生の皆さんの将来に関わる世界目標でもあります。先進国・途上国を問わず政府や国連を超えて個人・企業・市民社会全てが協力し、地球を持続可能なものとして未来世代につないでいく必要があるのです。

 

 SDGsに凝縮された課題は他人ごとではありません。世界はつながっているからです。グローバル化の種は足元にたくさん転がっています。最近、外国人の店員さんをよく見かけますね。普段何気なく使っているもの、食べている物の多くも国外から輸入されています。こうしたことに自ら関心を向けることが大切なのです。

 

「勉強」の枠にとらわれず、好奇心と興味にそそられた学びを

 

──受験生へのメッセージをお願いします

 私は世界史が好きで、受験でも世界史を選択しました。勉強としてではなく、好奇心と興味にそそられての学びでした。大学卒業後に就いたどの職における活動でも歴史の理解は非常に重要で、私の世界史の学びは現代史を中心に現在進行形です。

 

 英語の学習もまたしかりで、原書を読みたい、世界の人たちとコミュニケートしたいという気持ちから進んで身に付け、今では自分の仕事の上で欠かせない財産になっています。「受験勉強」という枠にとらわれず、自分の興味や楽しさを大切にしていただければ、と思います。

 

──大学に合格した後に心掛けておくべきことは何でしょうか

 大学生になると、自由にものを考える余裕と時間があります。人はとかく「How-to」に陥りがちですが、大学生にはぜいたくに時間を使って「なぜ、どうして」を突き詰めて考える思考力を身に付けてほしいです。

 

 加えて、東大が積み重ねてきた歴史にもっと思いをはせてほしい。せっかく由緒ある大学に通っている東大生には、本郷の総合博物館に行くなどして、東大の歴史に目を向けてみてほしいですね。

 

根本かおる(ねもと・かおる)さん (国連広報センター所長)

 1986年法学部卒。同年テレビ朝日入社。1996年コロンビア大学大学院国際関係論修士号を取得。UNHCR、フリージャーナリストなどを経て2013年8月より現職。

***

 この記事は、2018年8月に東京大学新聞社が発行した書籍『東大2019 東大オモテウラ』からの転載です。

 

 

 『東大2019 東大オモテウラ』は現役東大生による、受験必勝法から合格体験記、入学後の学生生活のアドバイス、後期学部への進学、そして卒業後の進路に至るまで解説したガイドブック。東大受験を考えている高校生や中学生の皆さんにお薦めです。


【フォトコンテスト作品募集中!】現在国連広報センターはSDGs学生フォトコンテストを実施中です。コンテストは、日本国内でのSDGsの広がりを推進するものとし、応募は日本国内で撮影した写真に限定します。SDGsの17のゴールから関心のあるゴールを一つあるいは複数選び、写真で表現してください。締め切りは8月20日(月)です。

コンテストの詳細はこちらのサイトから:http://www.unic.or.jp/news_press/info/28639/ 

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