受験

2021年6月30日

【受験なんでも相談室】暗記にどう立ち向かう?

 

 大学受験は悩みが尽きないもの。どうせ誰かに相談するなら、その道のプロにアドバイスをもらいたい! そんな受験生や保護者などからお悩みを募集し、東大生や東大の教員などに話を聞く連載企画「受験なんでも相談室」が今回扱うのは「記憶力」に関する質問。大学受験生のみならず、多くの人にとって永遠の悩みかもしれない。メモリーアスリートとして記憶力の限界に挑戦し、日本の「メモリースポーツ」界を牽引してきた青木健さんに、記憶の秘密と暗記のコツを伺った。

(取材・渡辺光)

 

〜メモリースポーツとは?〜

 メモリースポーツとは「記憶」の能力をトレーニングによって高め、戦わせる競技です。国内外の各地で開催される大会では、メモリーアスリートと呼ばれる選手たちが、数千けたの数字やシャッフルされたトランプの順序、架空の歴史の年号などを速く正確に記憶できるかを競います。アスリートは記憶力の向上を目指し、記憶術の訓練を行っています。

 

今回の質問

英単語や古文単語など、暗記がとことんできません。書いても口に出して読んでもうまくいかなかったのですが、いい方法はありますか。(高校生(2年生以下))

 

人間は忘れるようにできている

 

 人間は、全てを記憶することはそもそもできません。もし今までに経験したこと全てを覚えていたら死んでしまうとまで言われています。ですから、忘れるということは何ら不思議なことではない。これをまず理解してもらいたいです。うまく暗記ができなくても気に病む必要は全くありません。忘れることを当然のこととして受け止め、まず暗記することをポジティブに捉え直してみましょう。意外に思われるかもしれませんが、これが効率良く暗記するための第一歩です。まずは気を楽にしてみてください。

 

 忘れることを前提にすると、暗記への向き合い方も変わります。すぐに忘れてしまうからこそ、初めから集中して覚えること、そして忘れても記憶を取り戻せるように適切なタイミングで復習することが重要になります。受験生生活で意識すべき適度な睡眠・食事・体調管理は、集中力の維持のためにも大切です。また復習は、初めて記憶に取り組んだ時から24時間以内、3日以内、1週間以内の3回にわたって行うと効果的だと言われています。

 

記憶術=想像力のフル回転でインプット

 

 記憶力を競うメモリーアスリートたちは、短時間で正確に大量に記憶することを目標として、普段から記憶術の訓練を行います。その中で受験勉強にも応用できるのが「イメージ化」「ストーリー法」「場所法」です。

 

 「イメージ化」は記憶すべきものに関して、印象的な想像を膨らませる方法です。印象的なイメージにするコツは、絶対にありえない荒唐無稽(こうとうむけい)な場面や、少し想像するのが気恥ずかしいようなものを想像することです。英単語などの場合、単語帳などの例文を参考にしながら、単語そのものについてのイメージを膨らませましょう。単語に立脚した意味だけでなく、ダジャレや語呂合わせも活用できます。一つの事柄にさまざまなイメージを持っておくと思い出すときのきっかけが増え、記憶の手助けになります。

 

 覚えるものが多いときは、これらのイメージを結びつけて一連の物語にする「ストーリー法」が有効です。教科書の重要な単語などを羅列的に記憶するときなどにも使えます。「場所法」も上でご紹介した記憶法を応用したもので、自分にとって身近な場所のつながり(例えば自宅の周辺や登校するときのルートなど)の地点ごとに、「ストーリー法」で作った記憶に残りやすそうな出来事や場面を並べていく方法です。こちらは場所やルートを事前に用意しておく必要がありますが、一度作ると他の機会にも使えるので便利です。

 

 「candidate」という英単語を例に取ってみましょう。まずは単語の字面と日本語の意味、そして印象に残りやすい誰かを念頭に置いて、ある候補者が演説している様子を想像します。その後に自分なりのシャレと想像力を利かせ、印象に残りそうな小話を作ってみます。記憶できれば内容は何でも構いません。私は「飴(candy)の日(date)」制定を公約し、飴をばらまく候補者の姿を思い浮かべました。このようなおかしな状況を他の単語でも設定し、例えばある日の下校路で順番に起きていくように並べれば、場所法までの記憶術を使ったことになります。

 覚える時、つまりインプットするときのポイントは、集中すること、印象に残る覚え方を見つけること、そして復習することです。小テストなどの短期間の記憶でも、受験など長く記憶を保持する必要があるときでも、基本は同じです。

 

記憶術も活用して勉強を楽しく

 

 記憶力が良いと、特殊能力を持っているかのように感じられるかもしれませんが、実際は「計算が速い」とか「スポーツができる」といったスキルの一つで、鍛えることができるものです。記憶力を高めることは目的ではありませんし、万能ではありません。スキルを実際の受験で役立てるためには、もうひと工夫が必要です。

 

 例えばご紹介した「場所法」で、歴史の教科書に登場する用語を順番に覚えたとします。しかしそれだけでは用語以外の知識が不足し、それらの歴史的つながりも理解できているとは言えません。そこで、記憶を終えた次の段階として、アウトプットの練習を行います。自分で教科書の内容を説明できるようになることを目指して、用語の説明を読んだり、背景知識を調べたりします。すると、以前に記憶術を使って覚えた骨組みの部分に理論の裏付けが入り、実用的な知識として徐々に定着していくでしょう。

 

 最初に記憶術を使うことで、やみくもに暗記していくのに比べて速く進みますし、暗記したことの意味が後から分かってくるので、勉強の楽しさも感じられます。記憶術はそれだけでは意味をなしませんが、上手に活用することで勉強を効率化したり、勉強を楽しくしたりすることができる、いわば相乗効果をくれるものです。記憶術は知識をインプットするためのいわば下敷きとして使い、その後の暗記した内容を支える理屈や理論を学ぶことが大切なのです。

 

 長く受験勉強に取り組む間には、調子のいいときもあれば、そうでないときもありますが、他人に惑わされすぎず自分の勉強に集中しましょう。自分なりのルーティンを持ったり、集中できるコンディションを整えたりしながら、当日万全の体勢で臨めるよう頑張ってください。

 

青木健(あおき・たける)さん 日本メモリースポーツ協会会長。大学生の頃にメモリースポーツに出会い、メモリースポーツ日本チャンピオン、世界記憶力グランドマスターとなる。現在は自身が設立したBrain Sports Academyの代表としてメモリースポーツの普及や後進の育成に尽力するとともに、東大大学院総合文化研究科広域科学専攻広域システム科学系の開一夫研究室で記憶に関する研究を行っている。
 

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【記事修正】2021年7月1日午前0時36分 「〜メモリースポーツとは?〜」を追記しました。
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