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2020年3月5日

日本一ミクロな地方創生を むらおこしコンテストin ふっつ2020開催【後編】

 2月8~11日、千葉県富津市を舞台に、全国から大学生が集まり地域おこしプランを立案する「むらおこしコンテストinふっつ2020」が開催された。東大の地域おこし・農業サークルである東大むら塾(以下、むら塾)がこのコンテストを主催する。今年が初めての開催。東京大学新聞社で学生記者を務めると同時にむら塾の一員としても活動している筆者は、この「むらおこしコンテストinふっつ2020(以下、むらコン)」の運営に携わった。今回は大会の様子や地域活性化について筆者が感じたことを伝える。

(取材・友清雄太 写真・友清雄太 東大むら塾提供)

 

前編はこちらから!

 

3日目 思いを形に

 

 

 いよいよ折り返しの3日目。この日は市民会館でこれまでに得た情報を整理し、むらおこしの具体的なプランニングに入る。プランニングの進め方は特に決まりはなく、各チームが好きなように進行する。長崎地区チームでは、まず課題を付箋に書き出し、項目別に分類。その付箋間で因果関係や相関関係を探し、根本的な原因の究明とその解決法を探るため情報を階層化。

 

「若者がいないから仕事がないし、仕事がないから若者が来ないんじゃない?」

「若者が来れば、農業の魅力を伝えて後継者問題も何とかなるんじゃないか」

「空き家を何とかして使えないかな」

「地域の核となるコミュニティや場所があれば定着しやすくなりそう」

「周辺に企業を誘致して地区の魅力を伝えられれば人が移住するんじゃない?」

「住民目線って言うけど、これは本当に住民が求めていることなのかな」

などなど現状を踏まえ何ができそうかについてアイデアを出していく。

複数個簡単にプランを作り出し、総務省や千葉県で地方創生を担当している専門家たちにプレゼンし、フィードバックをもらう。そしてまた、プランの練り直し…。

 

 プランの骨子が出来上がる頃には市民会館閉館時刻の午後5時を回っていた。残りは持ち帰って民泊で作業を続ける。誰が主体となってプランを実行するのか、お金はどうするのか、持続可能性は十分か、など完成しつつあるプランに対しツッコミを入れ肉付けしていく。気が付くと日付はとっくに変わり午前4時。後で聞いたが他の4チームもこの時間まで作業をしていたという。連日運営の打ち合わせで疲労が極限に達していた筆者はエネジードリンクの効き目が切れた午前4時過ぎに深い眠りについた。健康睡眠。筆者以外のチームメンバーは1時間の仮眠を取り午前5時から作業を再開したらしい。敬服いたします。完成したプランの詳細は後ほど紹介。

 

最終日 4日間の集大成を伝えよう

 

最終発表会には地元住民を始め多くの観客が詰めかけた=富津市民会館ホールで

 

 参加者は市民会館に集まり、各チーム最後の追い込みをかける。最終発表は午後1時30分から、発表スライドの提出は正午まで。スライドが完成したチームの発表練習の声が聞こえて来る。

 

 最終発表会の会場は富津市民会館の市民ホール。ホール客席には160人弱の地元住民が既に待機し、熱気を帯びていた。審査員は、髙橋恭市氏(富津市長)・斎藤啓一氏(天羽地区区長会会長)・本野敦彦氏(東方商館株式会社代表取締役社長、日本ドラム株式会社常務取締役)・川村憲一氏(株式会社トラストバンク代表取締役)・橋本茂氏(新富工場協議会副幹事、日本製鉄株式会社技術開発本部技術開発企画部総務室主幹)の5名が務める。発表は各チーム10分程度で、その後審査委員が質問やコメントを述べる形式だ。

 

 

「山歩きde脱サファリ」

 トップバッターは竹岡地区。竹岡地区は天羽地区中西部に位置し、沿岸部では漁業、内陸部は農業が盛んな地域だ。むらコンでは竹岡地区の中でも第三区を舞台とした。第三区は南東部を中心に農業が盛んでそのほとんどが兼業農家だ。地区外への人口流出による耕作放棄地の拡大やイノシシ、鹿などによる獣害が問題となっている。

 

 竹岡チームは獣害に着目したプランを作成。人が流出し、山の整備がされておらず、山に人が立ち入っていないことが獣害が多発している原因と考えた竹岡チーム。そこで、山道をハイキングコースとして整備して、農地と野生動物の緩衝地帯として機能させることで獣害を減らせるのではないかと提案。具体的なプランとして、JRのイベント「駅からハイキング」のコースに竹岡地区にある旧造海(つくろうみ)城跡を追加してもらう・山道の整備のボランティアを募集する・ボランティアやハイキング参加者に民泊などで竹岡の暮らしを体験してもらうことなどを挙げた。このプランを実行することで、①ボランティアの消費活動で地元に経済効果が得られる②獣害対策効果③地域全体の活性化④認知度の向上⑤定住のきっかけになる、といった効果が得られるとした。

 

「『住民』の学校プラン」

 続いて金谷地区。金谷地区は自然豊かな観光地域だ。海岸線が長く広大な海が広がる一方、内陸部に行くとすぐに有名な観光スポット鋸山が目の前に広がる。新鮮な魚介類を提供する料理屋も多い。金谷港と神奈川県横須賀市の久里浜港を結ぶ東京湾フェリーが就航しており、対岸の神奈川県からアクセスが良いことも魅力だ。

 

 金谷チームは、地区のコミュニティが分散していることを課題に捉えた。コミュニティが散在していることで高齢化や人口減少が進む中で地元住民の交流が少なくなっているという。また、金谷地区に訪れる観光客は日帰り旅行がメインで地元の人と交流することは少ない。そこで今年度をもって閉校する金谷小学校の建物を地元の人と観光客が交流するコミュニティとして整備することを提案。具体的なプランとして①「学校給食食堂」の整備②「エコツーリズム」の活用を挙げた。①は、地元の水産物や農産物を学校給食のような形で提供し、観光客に懐かしさを味わってもらうとともに、交換ノートを設置して地元の人と気軽な交流を促す。②は、鋸山から海までを観光するスタンプラリーを設置し、そのゴールを金谷小学校にするというものだ。その結果、地元の歴史や文化に触れてもらい観光客と地元住民との交流が図れる。鋸山登山以外に明確な観光プランが存在しない現状に一つ具体的な提案をした形だ。

 

「峰上を支える環南みんなの楽校」

 3番手は峰上地区。むらコンの舞台となった峰上地区の志駒・山中地区は最寄りの駅から車で約20分のところにある中山間地域。地域のつながりが強く住民がフレンドリー、紅葉やきれいな水、動物がいるなどといった魅力があり、既にその魅力の発信に取り組んでいる。その取り組みの一つに、地区住民が運営主体となって廃校になった小学校跡地で子どもたちに自然・農業体験を実施する「環南みんなの楽校」がある。この取り組みは、利益を度外視して地元のつながりで実施している。災害時もこのつながりのおかげで住民自らの手で道路の整備ができたなど評価されるべき点が多くあり、廃校の活用の好例である。しかし、高齢化等に伴い運営が住民の大きな負担になり規模縮小の危機にある。

 

 峰上チームは、以上の優れた取り組みを維持するために外部の人を運営に入れて負担を軽減させることを提案した。地域貢献の実績がある地元の商業高校やNPO法人などに運営の協力を依頼し、住民の負担が少ない新たな企画を実施すること挙げた。また、SNSなどを活用した宣伝活動の強化も訴えた。さらに、紅葉を観賞しに来た観光客が峰上地区を通過するだけでお金を使わない現状にも着目。湧き水として有名な志駒不動様の霊水を用いたコーヒーや地元の農産物を販売する直売所を設けることも提案した。

 

「つなぐ、つながる、長崎!!」

 4番手となる天神山地区の長崎地区ついての詳細は上記を参照されたい。長崎チームは課題を分析する上で見えてきた「働く場所がないから若者が少なく、若者が少ないから働く場所がない」という現状に着目。地区に若者を呼び込めば、地元の伝統の継承や後継者問題を解決につながるのではと考えた。長崎地区を含む天神山地区では、地区唯一の小学校である天神山小学校が今年の3月をもって閉校する。校舎の一部は地元の学童保育業者が使用することが決定しているが、それ以外の空き教室の利用法はまだ明確に定まってはいない。そこで、長崎チームは天神山小学校の空き教室を働く場とすることを提案。サテライトオフィスやコワーキングスペースに整備することやベンチャー企業の誘致、移住者を長崎地区が受け入れることを具体策として挙げた。学童が近いことも、働く子育て世代にとっての魅力の一つだ。さらに、残りの全ての空き教室を職場にするのではなく、地元住民の交流スペースや生涯学習の教室としても活用することも提案した。その結果、一つの空間に子ども、働き世代、お年寄りの全世代が集まることが可能となり、地元の人の交流の場になる。

 

「ようこそ、太陽のまち天羽へ」

 最後は湊地区。湊地区は、駅や高速バス停を多く持つことから子どもが多い住宅地域だ。利便性の高い地域であるのは間違いないが、町全体に活気がなく昔より衰退を感じることが課題のようだ。そこで湊チームは「町に色をつけたい」をスローガンに、町に希望を持たせるプランを提案した。具体的なプランは二つ。一つは、駅前の路上タイルの張り替えだ。駅前の老朽化したタイルを小学6年生の卒業制作として、描いてもらったタイルに張り替えることで、思い出作りや漸次的な変化に地元の人がワクワクするのではと考えた。もう一つは、湊地区には関東最大級のメガソーラーの「富津ソーラー」が存在するが電力以外で有効活用できていない現状に着目。富津ソーラーを活用した子どもたちへの太陽光発電の教育やPR活動で知名度の上昇させることを提案した。「ベッドタウンじゃ終われない!」と発表を締めくくった。

 

 全体講評では、「5チーム視点が違うことに意味があると思う。挙げてくれたプランから刺激やヒントを得て活性化に繋げたい(髙橋市長)」「人の視点でものを考えるのはやはり難しい。住民の人は自分たちの考えと違った提案があったとき、それはなぜなのかを考えて見ると面白いと思う(橋本氏)」などの前向きな言葉が聞かれた。

 

 そして優勝チームの発表へ。1.住民目線2.地区単位3.実現可能性4.具体性5.インパクトの5つが審査基準。各審査員持ち点が100点あり、5つの項目の点数配分は審査委員がどの項目を重視するかで自由に委ねられている。5人の審査員の採点した点数の合計で優勝が決まる。結果、優勝は画期的な獣害対策を打ち出した竹岡チームとなった。優勝した竹岡チームのリーダーは「この4日間で感じたことを忘れてはいけない。自分たちが50歳、60歳になったときに次の世代にしっかりとしたバトンをつなげるように、何ができるか考えていきたい」と所感を述べた。最後に企画責任者の佐野達哉さん(法・3年)は「このコンテストは地域活性化のきっかけにすぎません」と述べ「それを絶やさないような継続的な努力が求められます」と大会を締めくくった。

 

富津市の総合地域情報Webサイト「富津っ子」提供

 

優勝した竹岡チームのメンバーの感想

 

・率直に優勝できて嬉しいです。自分たちが考えたことが審査委員の方に響いた手応えがありました。ただ、提案だけで終わらせたくなく、プラン実現に向けて今後も関わっていきたいです。

 

・何をプランのテーマに据えるかが難しかったです。ミクロに考えれば考えるほど、逆に抽象的な議論になったので。

 

・「住民目線」にはある程度立てたとは思います。しかし、声を聞いたのは私たちに協力的な人たちだったので、それ以外の人たちの声も拾っていかないといけないと思いました。

 

企画責任者の佐野さんのコメント

 

 まずは、参加者・住民・審査委員の皆さんが協力的だったことに感謝したいです。地域を何とかして活性化せねばという雰囲気を作ることはできたと思っています。「住民目線」をテーマに据えましたが、これは本当に難しいコンセプトです。どんなに努力しても本当の住民にはなれないので。しかし、これは全く意味のないことではありません。むら塾が6年間富津市相川地区で取り組んできたことを体現しているコンセプトだと思います。

 

 企画を進めていく中で企画自体の存在意義に悩まされることが多々ありました。果たして地域活性化の意識が必ずしも高くない所でこの企画を実施するのは妥当なのかと。結果的にむらコンは一定の成功を収めて意味のある企画だったと思います。でも、まだまだ改善の余地があるので来年度以降どう取り組むのかをむら塾内で話し合いたいと思います。

 

むらコンを終えて

 

 筆者はむらコン運営メンバーとして、参加者とほぼ変わらない距離で地元住民と接した。若者の流出や高齢化、コミュニティの崩壊の危機など地方で現在進行形で起きている問題にじかに触れられた。一方で、住民とじっくり話すことで、その土地が持つ魅力にも気付くことが出来た。ひとえに「地方」「田舎」と言っても、その土地にはその土地が持つ特性や伝統があり、ステレオタイプで一つにまとめて考えることはナンセンスだ。地域活性化に決まったセオリーは存在しない。そこが地域活性化の面白い点でもあり難しい点でもある。

 

 むらコンでは「住民目線」や「地区単位」を掲げ、可能な限り対象範囲を小さくし「ボトムアップ型」のプラン提案を試みた。これは、行政目線ではどうしても拾い切れない住民の声や第三者の意見を反映することで、今まで見落としていた視点からの新たな地域活性化の方法を探ろうというものだ。実際にプラン立案を進める中で、同じ地区内でも住民の意見やニーズは多種多様であり「住民目線」とは結局何だろうか、あまりに「住民目線」にこだわる余り、せっかくの第三者としての視点を欠落することになりかねないのではないか、作成しているプランは本当に住民が欲しているものなのかと自問自答することも多かった。実現可能性、具体性、独自性などを考慮しつつ、いかに多様な声に折り合いをつけてニーズを拾い上げられるか。一つの市を構成する最小単位の地区ですらこのような葛藤があるのだ。このことは私の中では大きな発見だった。

 

 結果的にむらコンでのプラン立案ではどのチームも一定の成果は挙げられたように思う。ただ、企画責任者の佐野さんが言うように、むらコンは地域活性化のきっかけにすぎない。プランを立案して帰るのでは意味が無い。幸いなことに、むらコンが終わった後も、全てのチームが提案したプラン実現に向けて継続的に活動したいと意欲を見せている。参加学生や私を含めたむら塾メンバーにとってここからのフェーズが本当の地域活性化の学びだと強く感じる。地元住民や市とも協力し合い、今回提案したプランを改良しつつ可能な限り実現させ、地域に少しでも貢献できるようこれからも努力を続けたい。もちろんその中でさまざまな葛藤があるだろうが。

 

日本一ミクロな地方創生を むらおこしコンテストinふっつ2020開催【前編】

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