EVENT 2016年9月25日

議論する力、表現する力、運営する力 学生の力が実る学生のための政策立案コンテスト

 8月22日から29日にわたり、学生団体GEILによる「学生のための政策立案コンテスト 2016」が国立青少年オリンピックセンターで開催された(コンテストの概要に関しては前回の記事を参照)。今回はコンテストの取材に基づき、コンテストの様子を伝えるとともに、コンテストに臨んだ学生の思いに迫っていく。

 

7泊8日、本気で議論を

 初対面の人が多い中、80人の参加者は4人1組のチームに分けられた。今年のコンテストのテーマ「子どもの就学前成育環境デザイン」に沿って、課題が発表された。その課題は、子どもの発達阻害要因に対処し、子どもの発達を保障する政策を立案せよというもの。ここから参加者の7泊8日に及ぶ戦いが始まった。

 

 政策を立案する前提知識として、コンテストの前半には官庁訪問やフィールドワークが行われた。フィールドワークの目的は役所や乳児院などを訪問し、実際に現場で働く人の声を聞き、見分を深め、政策案に反映させること。政策案が形になってからは、専門家や有識者にチェックしてもらう機会が与えられた。参加者は問題点や改善点を指摘してもらい、より洗練された政策案に近付けていった。

 

フィールドワークの様子(写真はGEIL提供)
フィールドワークの様子(写真はGEIL提供)

 

議論に重ねる議論を経て

 6日目は終日が政策立案。前日に専門家や有識者から受けた指摘を踏まえ、最後の仕上げとなった。記者は、この6日目に実際の参加者の声を聞いた。

 

 参加者の1人は「普段は真面目な議論をする場がないので参加した。思っていることを本気で議論するのは楽しい」と話す。議論は深夜に及ぶこともあったという。「政策を立案するのは予想以上に難しい。体力的にも精神的にも疲れが溜まる。それでも、充実した時間を送れています」。疲れを見せながらも生き生きとした表情で話してくれた。

 

 コンテストに参加した理由は人それぞれ。GEILの宣伝を見て興味を持った、先輩や友人の紹介があった、今回のテーマに関心があったなどの意見が聞かれた。多く聞かれたのは大学生の今しかできないことをやりたいという気持ちだった。参加理由はさまざまだが、皆が目指すは優勝の文字。1日中机を囲んで政策案について意見をぶつけ合う姿は、真剣そのものだった。

 

意見をぶつけ合い、政策案の完成を目指す(撮影・横田悟)
意見をぶつけ合い、政策案の完成を目指す(撮影・横田悟)

 

GEILの組織力

 議論はCC(Case Checker)と呼ばれる担当者が各チームに1人ついて進められた。CCの仕事は議論の進行役を務め、資料や知識を提供し、議論の方向性を示すこと。さらに、昼夜問わず質問に対応するスタッフの体制が整っており、できる限りのサポート体制が敷かれた。参加者には政策立案に万全のコンディションで臨み、良い政策案を作ってもらいたいというGEILの思いが形になっていた。

 

 GEILの運営は全てを学生の力だけで手掛ける。スタッフの任期は1年半と決まっており、2年生にとっては夏に行われるこの「学生のための政策立案コンテスト」が任期の一区切りとなる。GEIL副代表の能智敬之さん(文Ⅰ・2年)は「GEILのスタッフにとっても満足いくコンテストにしたい」と意気込みを語ってくれた。

 

 「GEILが18年間活動を続けてこられたのは、GEILの組織力が理由です」と能智さん。1年半という限られた任期だからこそ、最高のコンテストを作り上げたいというスタッフ一人一人の思いが強まり、GEILの成長の糧となってきたのだ。

 

議論の成果を存分に表現

 7日目は全20チームによるプレゼンテーションが行われた。6日間の成果をそれぞれのチームが全力で表現する。審査員は学者や、民間団体で子供に関するテーマを見据えて活動する人々が務める。20チームのうち上位4チームが絞られ、8日目最終日の最終プレゼンテーションへと駒を進めることとなった。

 

 最終日の8日目、最終プレゼンテーションが行われた。7日目に選ばれた上位4チームは、最終日までに政策案見つめ直し、修正を加えた上で最終プレゼンテーションに臨んだ。GEIL代表の田本英輔さん(文Ⅰ・2年)の挨拶、課題文説明、審査員紹介を経て、4チームのプレゼンテーションが始まった。

 

 プレゼンテーションは緊張感に包まれながら進行した。あるチームは巧みなアニメーションを用いて、またあるチームは的確なデータを示すことで、問題意識や政策案のポイントが表現され、1週間の努力の成果が観客に伝わっていった。審査員からの質問に対して苦労しながらも代表者が受け答えし、他のメンバーが補足説明をするという形で、チームの力を合わせて対応しているのも印象的だった。

 

 各チームの政策案には、元DV被害者が後のDV被害者を手助けする制度、母子手帳における記述の変更、「児童相談所」の名称変更といったことが盛り込まれており、「従来の枠組みにとらわれない、学生だからこそ生み出せた新鮮な発想だ」との評価を受けた。反論を想定し、地道に議論を重ね、論理的に説明しようとして作られた政策案は、審査員から「とても1週間で完成させたとは思えない」と称賛を受ける完成度。学生はフィールドワークで実際に児童問題に携わる人々の意見を聞き、それぞれが印象に残った部分について新鮮な気持ちで掘り下げていった。その結果、審査員を驚かす政策案が出来上がったのだ。

 

優勝チームインタビュー コンテストを経て得たものとは

 優勝したのは「チームまるっとネットワーク」という政策案と、里親制度の改善を提唱したチーム。新聞会社や保険会社などの訪問員が児童虐待の発見に一役買ってくれる、という従来の制度を絶対視しない学生ならではの発想が審査員を納得させた。自由な発想で最優秀政策案を作り上げたメンバーの思いを聞いた。

 

 政策案のポイントについて、横山幸子さん(慶應義塾大学法学部・1年)は「親と行政をつなぐため民間機関から情報を取り入れたこと」、露口慶一さん(文Ⅰ・2年)は「従来の政策の問題点を絞り出したこと」、川上由利子さん(早稲田大学教育学部・1年)は「判断一つ一つにしっかりと根拠づけをしたこと」と答えてくれた。抜かりない情報収集力、発表に説得力を持たせるためのひと工夫、そして自由な発想が最優秀政策案につながったのだ。

 

 「コンテスト中に1番強く感じたのはロジックの重要性です。今まで自分がどれほどなんとなくで判断をしてきたかを実感しました。今後は何か判断をする時は必ずロジックを意識するようにしようと思います」。こう話してくれた川上さんにとって、今回のコンテストで養った能力は、今後の人生の重要な資産になったことだろう。露口さんはコンテストで出会った友人の大切さを強調する。「GEILのコンテストでは、以後もずっと長く続くような、知的興味のある分野の近い友人が出来るし、一つの政策分野に関して深く勉強できます」

 

 もちろん、コンテストは決して楽なものだったわけではない。このチームは1人が体調不良で辞退、3人での戦いとなった。「生活環境が非常に悪くて、何度も投げ出したくなったが、今は睡眠を削ってまで頑張ってよかった」と横山さん。「私はこの8日間のさまざまな場面で、教養不足を痛感させられました。今後は社会に広く関心を持って、さまざまな知識を身につけながら、興味を持ったことに果敢に挑戦していきたいと思います」。コンテストは辛い面もあるが、それ以上に得られるものが大きいということを彼らが証明してくれた。

 

最終日の記念撮影(写真はGEIL提供)
最終日の記念撮影(写真はGEIL提供)

 

おわりに

 GEILの参加者への気遣いは、学生ならではの特色を持つ政策案の形になり実った。コンテストの参加者からは、自分を追い込んだ状態で発揮する学生の力は計り知れないということを思い知らされた。今回の「学生のための政策立案コンテスト」を通じて記者が思いをはせたのは、学生が持つ可能性の大きさだった。

 

(取材・石井達也)

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