COLUMN 2020年3月25日

【新たな世界への入り口に 編集部員が選んだ入学前に読みたい4冊】『夜と霧』

 東大入試を終えてほっと一息。受験勉強から解放され、大学での学びの扉を開く新入生に編集部員が一押しの本を紹介する。文理の枠を超えた教訓を含む本や、各分野の入り口となる本など、入学前の時間が取れる時期に読むのにぴったりなものばかりだ。これらの本から得られる気付きは、大学での学びをより深いものにしてくれるだろう。新型コロナウイルスの影響で学校が休校になっている人も、ぜひじっくり時間をかけ味わいながら読んでみてはいかが。


 

読み手の心を映し出す鏡

 

『夜と霧』 ヴィクトール・E・フランクル 著/霜山徳爾 訳

 

みすず書房、税込み1980円(書影は旧版)

 

 ナチスの強制収容所での実体験を基に生きる意味について説く名著。既読の方も多いのを承知で紹介するのは、大学入学といった人生の節目に改めて読む価値があると思うからだ。

 

 原著は1946年発表で、77年に改訂版が出た。日本では原著に基づく旧版が56年に、改訂版に基づく新版(池田香代子訳)が02年に出されている。

 旧版は強制収容所に関する独自の解説付き。当初は強制収容所の実態を伝えるものとして受容され、やがて生きる意味を問う本とされた。読まれ方の変化は時代に応じたものだろう。しかし、新旧両方今も売れているという事実は、本書が元々多様に解釈し得る奥深さを有していたことを示唆する。

 記者が本書に初めて触れた中学3年の時は、旧版の解説も手伝ってか強制収容所の凄惨さばかり記憶に残った。もちろん本書は臨場感ある体験記としての価値も持つ。ただ当時は、生きる意味を扱う本としての側面を、実感を伴って理解することはできなかった。

 

 大学では主体性が必要とされる。しかし記者は東大入学後、新しい環境に慣れず無気力になっていた。ふと本書を開くと、次の一文に目が留まった。「人生から何をわれわれはまだ期待できるかが問題なのではなくて、むしろ人生が何をわれわれから期待しているかが問題なのである」。本書のハイライトでもあるこの箇所は、自分の人生に向き合うきっかけを与えてくれる。

 

 直接生きる意味について説く箇所以外も、人生のヒントになり得る。たとえば「人間の善意は全部からみれば罪の重いグループにも見出されるのである」。著者が解放される前、最後に過ごした収容所の司令は自腹で「囚人」に薬を買っていた。個人レベルでも完全な善人・悪人はいないだろう。他者を善や悪だと決めつけずに真摯に向き合うことも、人生から期待されているのかもしれない、と考えさせられる。

 

 示唆に富んだ内容故に、読むタイミング次第で印象が変わり得るのが、多様な形で愛読され続けてきた理由だろう。新たな環境で迷いが生じたら、本書を手に取ってみてほしい。きっと、自分の心の今のありようを映し出す鏡となってくれるに違いない。

 

***

 

ヴィクトール・E・フランクル オーストリアの精神科医、心理学者。


この記事は2020年3月3日号から転載したものです。本紙では他にもオリジナルの記事を掲載しています。

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