INTERVIEW / OBOG 2020年3月11日

岩手の復興と共に走る 「ふるさとに貢献したい」三陸鉄道社長の思い

 2011年3月11日、東日本大震災は多くの命や人々の日常を奪った。当時岩手県職員として震災の最前線で働き、現在は三陸鉄道の社長を務める中村一郎さん。岩手県の復興に尽力する中村さんの胸中に迫る。

(取材・安保友里加 撮影・渡邊大祐)

 

中村 一郎(なかむら いちろう)さん(三陸鉄道株式会社代表取締役社長) 79年法学部卒、同年岩手県に入庁。14年には復興局長に就任。16年に岩手県を退職、同年より現職。

 

  東大卒業後、岩手県にUターン就職された動機は

 

 長男なので、いずれは故郷の岩手県に戻る必要があると考えていました。一旦首都圏で働く選択肢もあった中で、一番の決め手は「ふるさとに貢献したい」という強い思いです。

 

  岩手県在職中に東日本大震災に見舞われます

 

 震災発生時は沿岸広域振興局長として、単身赴任先の釜石市にいました。内陸寄りの釜石地区合同庁舎から海岸方向へ進み、15時に予定されていたセミナー会場に向かっているところでしたね。会場に参加者は多く集まっていましたが、私の判断でセミナーは中止とし、車で急いで庁舎に戻りました。盛岡に住む家族とは1週間近く連絡が取れず不安が増す中、目の前の惨状に対して取り組むしかなかった日々を覚えています。避難所設置や応急仮設住宅の建設に向けた用地や業者の確保、ご遺体の対応などの復旧関連業務にあたり、市町村と一体となって、迅速な対応に努めました。

 

 地震・津波による岩手県での死者・行方不明者は、約5800人に上ります。所管区域内で親しくしていた、当時の大槌町長や大槌町幹部の多くも津波で犠牲となったことは非常に残念で悔しい気持ちでした。

 

  14年から、岩手県の復興全体を所管する復興局長として県内の復興に貢献されました

 

 在任中、被災された方々が避難所や仮設住宅といった悪条件の下でも、お互いに助け合いながら過ごしている光景を多く見たことが印象深いです。復旧や復興のために主体的に何らかの活動に関わっている方のほうが、そうでない方々より復興について前向きな受け止めをされる傾向にあるように感じました。震災からの復興だけに限りませんが、地域に関わる取り組みを進める場合に、いかに多くの方が参画し自分のこととして考えてもらうかが大事なのかを痛感しました。

 

  三陸鉄道の全線復旧にも立ち会いました

 

 14年4月、復興局長として三陸鉄道の全線復旧記念列車に乗車しました。沿線に多くの方々が出て、記念列車に向かって大漁旗や小旗を振って喜んでくれた光景は忘れられません。

 

三陸の海を背に走る三陸鉄道リアス線(写真は三陸鉄道提供)

 

  16年には三陸鉄道の社長に就任されます

 

 県庁に勤めていた12年には政策地域部長として、鉄道の復旧支援をしていました。地元市町村の要望を尊重しつつ、鉄道の復旧かBRT(バス高速輸送システム)での復旧かを決めることの難しさを知っていたんです。だからこそ、リアス線の開通に向けて全社を挙げて取り組む責任を感じていました。

 

 BRTは鉄道に比べて短期間での復旧が可能です。一方、鉄道は定時性や乗車定員などの面で優れ、鉄道ファンの乗車も期待できます。鉄道での復旧を望んでくださった市町村、住民の声が三陸鉄道の復旧、復興を支えてくださいました。

 

  リアス線開通のわずか半年後、19年10月の台風第19号により、三陸鉄道は途中区間運休を迫られました

 

 台風被害は、斜面が崩れたり、土砂が線路に流れ込んだりと77カ所、復旧費用は20億円に及びました。全線復旧は3月20日の見通しで、台風直後の運行区間は全体の3割でしたが、現在は7割に到達しています。迅速な復旧の裏には震災の教訓が生かされました。

 

 発災直後には、被災箇所の調査と並行して復旧工事を行う工事事業者の確保に動きました。災害後、工事事業者の不足は避けられないと学んでいたからです。高校生の通学や高齢者の通院に需要の高い区間や、運転再開できそうな区間の復旧を優先的に行いました。不通区間は代替バスを走らせていますが、利用者にはご不便をかけています。

 

 膨大な復旧費用の確保も課題でした。自社だけでは賄えないため、国や県などに要望活動を行いながら復旧費支援をお願いしました。国、県、市町村で全額負担のめどが付き本当に感謝しています。

 

車窓から震災伝える

 

  東日本大震災から今年で9年が経過しますが、岩手県の復興状況は

 

 災害公営住宅や防潮堤、道路などのハード面での復旧・復興事業は終盤を迎えています。一方で、災害公営住宅に入居している被災者は、ご近所とのつながりが少なくなり仮設住宅入居時よりも孤立化を深めているという報告もあるのが実情です。被災者一人一人に寄り添ったソフト面での対応は、引き続き必要となっています。

 

 震災を経験し、住民の命の確保が行政の最も重要で根幹を成す業務であることを身をもって理解しました。同時に、被害を最小限に食い止めるための備えや事前の取り組みの重要性にも改めて気付かされました。近年は全国的に大雨被害が発生し、首都圏直下型地震や東南海地震などの危険性も指摘されていますが、一般住民の危機意識がまだ希薄なことが心配です。

 

  「震災学習列車」について教えてください

 

 三陸鉄道では「震災学習列車」(現在は団体予約向け)の運行を12年6月より始めました。三陸の被災の状況や復旧・復興の道筋などを、社員が説明を加えながら、パネルや車窓から学んでもらうものです。震災を経験した社員による自らの体験を踏まえた解説で理解が深まると好評です。

 

 「震災学習列車」ができたきっかけは「不謹慎ではないか」と被災地を訪問することを遠慮している観光客がいると聞いたことです。三陸鉄道は、震災直後より日本全国から多数の激励や支援を受けたので、復興のいまを発信して社会に貢献できたらと思っています。

 

 甚大な被害で多くの命や人々の生活を奪った震災の記憶を伝承することの難しさには日々直面しています。
作家・早乙女勝元氏は大きな災害について「知っているなら伝えよう、知らないなら学ぼう」と呼び掛けています。これまでの災害を「自分のこと」として学び「自分の命は自分で守る」ことを実践してほしいですね。

 

  三陸鉄道の今後の目標は

 

 「地域の皆さんの足」を守るのはもちろんのこと、地域経済の活性化に貢献できるよう頑張っていきたいです。三陸鉄道がきっかけで、全国から三陸に訪れる方が増えることを目指して努めていきます。

 

  これから社会へ出る東大生に一言お願いします

 

 多様化する活躍の場の一つがふるさとであると思います。東大で学び、ふるさとを客観視できました。若者がローカルにも目を向けてくれたらうれしいですね。


この記事は2020年2月4日号から転載したものです。本紙では他にもオリジナルの記事を掲載しています。

インタビュー:岩手の復興と共に走る 「ふるさとに貢献したい」三陸鉄道社長の思い 中村一郎さん
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