INTERVIEW / OBOG 2018年10月19日

お金以上の自由求めて 山本周五郎賞受賞の東大生 ・小川哲さんインタビュー

 作家の小川哲さんは、現在も総合文化研究科博士課程に在籍しながら、SF界の新鋭として注目を集めている。昨年発表されたデビュー2作目『ゲームの王国』では、第38回日本SF大賞、第31回山本周五郎賞を受賞した。今後ますますの活躍が期待される小川さんに、作家になった経緯や、小説に対する考え方を聞いた。

(取材・伊得友翔 撮影・宮路栞)

 

小川 哲(おがわ・さとし) さん (作家) 2012年教養学部卒。総合文化研究科博士課程3年 (休学中)。15年に『ユートロニカのこちら側』(早川 書房)で第 3回ハヤカワSFコンテスト大賞を受賞し、 作家デビュー。2作目となる『ゲームの王国』では第38回日本SF大賞、第31回山本周五郎賞を受賞した他、 第39回吉川英治文学新人賞の候補作品にも選ばれた。

 

岩波文庫は「過去問」

 

──作家を志したきっかけを教えてください

 自分が高校時代に何気なく書いた小説を、母親が勝手に友人の編集者に送ったのがきっかけです。その編集者の方から「面白いので別の作品も読みたい」と言っていただき、勉強して新しく小説を書くことにしました。書いた小説は結局ボツになったんですが、さらに数年後書いた小説がデビュー作になりました。

 

──勉強とは具体的に何をされたのですか

 受験で言うと過去問を解くみたいに、名作を多く読みました。東大生協駒場書籍部に置いてある岩波文庫を全部読むことを目標にしていましたね。中でも、モーパッサンやフォークナー、ドストエフスキーやチェーホフは好んで読みました。日本人だと谷崎潤一郎や太宰治あたりですかね。

 

──学部生の頃はどのような生活を送られましたか

 大学には全く行きませんでした(笑)。昔から、じっと座って人の話を聞くのが苦手なんですよね。特に大人数の授業が退屈で、授業に行かず本を読んで過ごしていました。それで単位も取れず、何度か留年してしまいました。

 

──ご自身の研究内容を教えてください

 理Iから工学部に進んだ後、興味が変わって教養学部に移りました。そこでは日本文学を研究し、卒論では中上健次について書きましたね。博士課程の先輩の勧めを受けて、大学院では研究対象を英語圏に変えることにしました。以降、数学者として有名なアラン・チューリングを研究しています。チューリングはアルゴリズムを作った数学者なのですが、戦時中は軍人としてナチスのエニグマ暗号を解読し、戦後は哲学者として人工知能の研究をしたり、生物学者として形態形成学を研究したりしています。彼がなぜこのようなキャリアを歩んだかというのが、自分の修士論文のテーマでした。

 

──研究と執筆活動の間に何か関連性はありますか

 チューリングは人工知能を研究する際、心とは何かを考えていました。そのため研究の過程では、心理学系の本をたくさん読みましたね。これらは確かに小説を書くきっかけになっていて、実際デビュー作のエピグラフ(巻頭などに引用されている題辞)に使用したスティーブン・ピンカーは、この時に初めて出会った人物です。

 

──作家としての強みはどこにあると思いますか

 小説では「場合分け」が求められると考えています。時系列や登場人物の行動に矛盾がないよう、出来事の因果関係を作家が把握していなければなりません。自分はもともと理系で数学が得意なので、この場合分けも得意だと思います。例えば編集者から改善案を示されたときに、それを反映するとどういう矛盾が生じるかが割とすぐに分かります。

 

 

文学の隙間を書く

 

──小説はどのように着想されますか

 日々生きていて、自分は「文学の隙間」を感じるときがあります。例えばニュースを見ていると、「この人はこういう気持ちだったのかな」と出来事の背景を想像するんですね。そこから、文学に発展させていくというわけです。こういった可能性を探すためにも、いろんなジャンルの勉強をしたり本を読んだりしています。特に歴史系は興味深く、『ゲームの王国』はクメール・ルージュの話から想像を膨らませました。

 

──執筆の際に気を付けていることはありますか


 なるべく余計なことは書かないようにしていますね。90分のつまらない映画を見たときと、3時間半のまあまあの映画を見たときに、自分は後者の方に腹が立つんです(笑)。つまらないことよりも余計なことを書くのが罪ではないかと、小説においても最近そう感じています。特に今は昔よりも時間に追われる中で本を読んでいる人が多いと思うので、できるだけ無駄を排除したいという意識は持っています。

 

『ゲームの王国』上・ 下 早川書房 上下巻共に税込1944円

 

──これまでの印象的な読書体験を教えてください

 中学生のとき、父親の本棚にあった筒井康隆の本が面白かったのはよく覚えています。それからは基本的にSFを中心に読んできました。あとは大学生になって読んだ、町田康の『告白』はすごく感動しましたね。「小説はこんなことができるのか」という驚きもありました。

 

──読書の魅力は何でしょうか

 本を読む前と読んだ後で、世界の捉え方が変わる可能性があることですね。実際、自分が中学生の時に読んだSF小説は「こういう見方もあるのか」と思わせるものが多かったです。ありきたりかもしれませんが、今まで見ていた景色が変わって見えることが確かにあると思っています。

 

──今後の目標を教えてください

 率直に言えば、より多くの人に読んでもらいたいです。自分も書きたいジャンルにこだわりはないので、SF以外の作品も書いていきたいですね。そうしてSF以外の読者にも自分を知ってもらえれば良いなと思います。

 

──最後に、東大生へのメッセージをお願いします

 東大を卒業して小説を書いている人は少ないです。理由は単純で、もうからないからですね。小説を書く才能を持っている東大生は、小説を書かない方がはるかにお金持ちになれます。ただそこをぐっとこらえて、小説を書いてみるのはどうでしょうか。お金以上の自由が作家にはありますよ。


この記事は、2018年10月2日号からの転載です。本紙では、他にもオリジナルの記事を掲載しています。

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