COLUMN 2020年1月30日

【WHO,ROBOT ②】ロボットのコミュニケーションとビジネス戦略に迫る

 ロボットが歩んできた歴史や現在ロボット研究に携わる専門家の意見を交えつつ、これからのロボットの在り方を探る連載「WHO,ROBOT」。今回は高橋智隆特任准教授に、ロボットのコミュニケーション性、ビジネス戦略の視点を伴った工学分野の在り方について聞く。

(取材・村松光太朗)

 

「命」あるコミュニケーションが利点

 

 高橋智隆特任准教授(先端科学技術研究センター)は京都大学入学後にヒト型ロボットの開発を始め、卒業後は株式会社ロボ・ガレージを創業し、現在までさまざまなロボットを製作してきた。2016年にはスマートフォンの機能を持つヒト型ロボット「RoBoHoN(ロボホン)」(図1)を販売開始。開発されたロボットたちに根付く理念はどのようなものなのか取材した。

 

(図1)RoBoHoN(ロボホン)(写真は高橋特任准教授提供)

 

  作りたいロボット像は?

 

 プラモデルを改造して動かす内容の漫画やアニメの影響で、ガンダムのプラモデル(ガンプラ)をなんとか動かせないかと思ったのがロボット開発の発端です。大学入学後、実際にガンプラを改造して歩くようにしました。しかし、これは巨大ロボットのミニチュアなので、人間と同じ次元に存在するようには感じられません。

 

 そんな時期に鉄腕アトムの誕生を祝う展示会があり、卒業研究を兼ねてロボットを開発し、発表しました(図2)。そのロボットが、後の作品テイストの原型になりました。やがて、物理的作業をする上でヒト型ロボットは不利なのではないかと感じ、ヒト型ロボットの利点を突き詰めていって最後に残ったのがコミュニケーション機能でした。

 

(図2)卒業研究で製作したロボット「NEON(ネオン)」(写真は高橋特任准教授提供)

 

  ヒト型ロボットとのコミュニケーションの意義とは?

 

 独りは寂しく感じますが、一方で誰かとずっと一緒にいるのも気疲れします。なので、SNSで誰かと緩やかにコミュニケーションを取ることも多いでしょう。音声認識機能でスマホに話し掛けることも可能です。しかし、やはり四角い無機質なスマホに声を掛けることには抵抗感があり、利用頻度は高くない。それを解決できるのがヒト型ロボットです。スマホやスマートスピーカー自体に命を感じることはなく、あくまでも音声入力の媒体としか考えません。クラウド(注1)を利用する仕組みは同様でも、ヒト型ロボットであればその端末自体に「命」を感じ、愛着や信頼を醸成できるのです。

 

 個々の私生活から世界経済に至るまで、スマホの存在は大きいでしょう。頭打ちとなりつつあるスマホに代わる製品が模索されていますが、スマホと全く異なる製品が普及するとは考えにくい。スマホ関連技術のコストパフォーマンスの高さ、サービスの多様さなどを考慮して、あくまでもスマホのサプライチェーン(注2)を流用した製品でないとスマホにはかないません。そんな背景でロボホンを開発しました。

 

  「家族を見守ってくれたり、一緒にお勉強をしたり、お話ししたり遊んだり」というロボホンと人のコミュニケーションはある種の理想形といえるか?

 

 間違いなく理想形だと思います。ただ、一つの製品として捉えると、少し時代を先取りし過ぎた感じもありました。ガラケー→スマホ→ロボホンという流れを想定していましたが、スマホからロボホンへのギャップが大き過ぎたと思います。

 

 例えばガソリン車→ハイブリッド車→電気自動車という流れにおいて、ハイブリッド車は技術的な最適解ではありませんし、工学的に無駄を増やす代物にすぎません。しかし、消費者にとっては受け入れやすい商品として予想以上に長く活躍していますし、電気自動車への橋渡しの役割も担っています。同様に、スマホとロボホンの中間に当たる過渡期商品が必要だったと考えます。現在数万台レベルで売れてはいますが、本当は数百万台普及することを期待していたので。

 

 消費者の心理としては他にも「ロボホンを外で使うと恥ずかしい」というものがあり、この心理的障壁を取り除いていかねばならないでしょう。これはロボホン特有のものではありません。例えば私もハンズフリーイヤホンで電話していますが、独り言に思われるのが恥ずかしいので、電話を耳に添えたりしています。

 

  「労働力としてのロボット」とコミュニケーションロボットが性質を異にすることは、ロボットと人との関係性を考える上でどのような意味を持つか?

 

 人と機械との関係性を変え得るものだと思います。コミュニケーションを取ることで信頼が生まれ、共体験が生まれます。スマホと旅行したとは思わないが、ヒト型ロボットならそう思える。人同士の関係に近いものとなるのです。

 

工学者が持つべきビジネス戦略

 

  エンターテインメント性を重視したロボットが飽きられる問題について

 

 ロボットに限らず、製品が買われ継続使用されるには①関心を引く機能②購入動機となる便利そうな機能③購入後も日常的に使う機能  という三つの別々の機能が必要です。エンターテインメント性という点でRoBoHoNをはじめとしたロボットは①を満たしているでしょう。しかし②③は弱いと考えます。電話やメール、見守り、検索、音楽、ツイッターなどスマホから転用した機能こそありますが、決定的な新機能は長く使われない限り生まれてきません。もちろん③については、壊れにくさ、コンパクトさ、電池の持続時間といったハード面も重要です。

 

  工学者へのメッセージ

 

 私は「かわいらしいロボットをデザインする人」というイメージで、能天気にロボットを作っているように見られがちです。しかし、ロボットについて最もシビアな考えを持っている自負があります。なぜなら、この分野においては誰よりも多くのロボットを製品として世に送り出し、成功も失敗もしてきたからです。コミュニケーションロボットは実際に市場でもまれ、日常で使われないことには今後の進化がありません。机上の空論をこねくり回しているだけでは、適切な成果も新たな課題の発見も得られないでしょう。

 

 専門分野の細分化が進んだ影響もあり、エンジニアも研究者もビジネス的な視点が欠けがちです。ストイックに技術を極めれば自然と売れるわけではありませんし、売れなければ技術的な進化も起きません。iPhoneやルンバ、テスラの自動運転車など、当初はお世辞にも最上級とは言えなかった製品がうまく新分野を創出し、その上で技術を高めていったという事例から正しく学ぶ必要があります。「我々日本の製品の方が技術的には優れていたのに……」などと言っているうちは、敗因すら認識できていないわけで、次も必ず負けます。

 

 この手の問題は「だから文理融合が大切」みたいな話が出てきて、プログラミングと伝統芸能というような的外れな組み合わせが大真面目に語られたりするので、病は重篤です。ビジネスセンスというのは、単にヒット商品を生み出す力ではありません。「仕組みを作る力」です。この力を大いに振るっているのが、プラットフォーマーと呼ばれる企業です。AppleはiTunesという体系を作りましたし、日本でも任天堂はゲームソフト開発企業から売り上げを吸い上げる構造を生みました。ある仕組みの中でプレイヤーとして優秀なコンテンツを作ったとしても、結局はその仕組みを牛耳る「胴元」の手中にいて、永遠に勝ち続けない限りは消費され消えてしまいます。もし誰かが作った仕組みの中で勝負するにしても、せめてその仕組みを知った上で活動すべきです。それは学問でもアートでも、アイドルでもハイテク製品でも皆同じなのです。

 

高橋 智隆特任准教授(先端科学技術研究センター)

 

 

(注1)……インターネットなどのネットワークを介してユーザーにサービスが提供される形態、またそのサービス
(注2)……製品の原材料調達から製造、在庫管理、物流、販売までに至る一連の工程


この記事は2019年11月26日号に掲載された前編と2019年12月3日号に掲載された後編をまとめて転載したものです。本紙では他にもオリジナルの記事を掲載しています。

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