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2018年8月4日

大槌町・沿岸センター新研究棟が一般公開 9000球のバルーンが空を彩る

 東日本大震災で被災した東大の附置施設、大気海洋研究所国際沿岸海洋研究センター(岩手県・大槌町)の新研究棟が本格始動し、7月21日に初の施設見学会が開催された。震災から7年以上が経つ現在も仮設住宅で暮らす人が残り、地道な復興活動が続く大槌町。地域住民が初めて新研究棟に立ち入る機会となったイベントを訪れた。(取材・撮影 石沢成美、小原寛士)

 

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大槌町民ら208人が来場

 

 「3、2、1、ハイ!」──河村知彦センター長の合図で、9000球のバルーンが放たれた。空をいろどるカラフルなバルーンに来場者は大きな歓声を上げ、センターの新たな門出を祝った。

 

新研究棟を前に、来場者全員でバルーンリリース。バルーンは自然分解する素材を使い、クラウドファンティングの資金を用いて購入された

 

 国際沿岸海洋研究センターは2011年の東日本大震災で被災し、津波により研究機材やデータを多数失った。今年2月、旧研究棟から徒歩10分の高台に新研究棟が完成。初めての一般公開となった今回、大槌町民ら208人が新研究棟を訪れた。

 

 会場はバルーンアーティスト・須原三加さんが装飾を担当。須原さんは大気海洋研究所出身で、現在はバルーンデコレーション会社Loved up balloonsの代表を務めている。須原さんを講師としたバルーンアート教室も開催され、来場者は慣れないバルーンの扱いに試行錯誤しながらも、風船が魚の形に変わっていく様子を楽しんでいた。

 

エントランスホールには、センターの研究対象である海をモチーフにした作品が並んだ
講師の須原さんを手本に、バルーンアート作りを楽しむ子どもたち。震災後に生まれた子どもも多い

 

 エントランスホールの天井画を担当したアーティストの大小島真木さんによるワークショップ「海のスープの味わい方」では、来場者が寝そべって天井画を鑑賞した。クジラやウミガメ、プランクトンという多様な生物が登場する天井画は、大小島さんが生物に詳しい研究者に意見をもらいつつ制作されたという。大小島さんは、「天井画を見て一人一人に『海ってどんなものかな』と考えてもらいたい」と語った。

 

寝そべって天井画から生物を探す来場者。奥の青いワンピースが大小島さん

 

 福岡拓也特任研究員、大土直哉特任助教、早川淳助教(いずれも国際沿岸海洋研究センター)による研究紹介も開催。福岡特任研究員と大土特任助教はウミガメとウミガメに住み込むカニについて、解明され始めた生態を紹介した。早川助教は磯の多様性を伝えるため、各地で「磯ラーメン」を食べ歩いてその具材を「組成分析」した結果を発表し、観客の笑いを誘っていた。

 

 

 バルーンアートで楽しそうに遊んでいた5歳と小2の兄弟は、小学校で配られたプリントでイベントの開催を知ったという。2人の祖母は「震災後、テレビでセンターの研究活動を知るようになった。講義は子どもたちにはちょっと難しかったみたいだけれど、バルーンアートを楽しんでいたようで良かった」と笑った。

 

 大槌町で働く20代の女性は「このイベントで大槌に希望を感じた」と話す。「大槌に移住してから『最低限の生活をすることが精一杯』という印象だったけれど、研究という文化的な面も整ってきているんだなと思った。これからもセンターに地元の人が通い続ける理由ができればいいな」。住民が楽しめる生物展示や、小中学生の自由研究の手助けになるような活動を期待しているという。

 

整備の進まない施設も

 

 8月には新研究棟に隣接するゲストハウスの利用が開始され、学生や共同研究者の宿泊が可能になる。今年から大槌に移住したという博士1年の学生は「今は仮設住宅に住んでいるが、8月からは新しいゲストハウスに移れる」と期待を寄せる。

 

新研究棟の敷地は「災害危険区域」に指定され、住宅地としての利用はできない。ゲストハウスは道路の反対側に建設された

 

 一方、昨年度までに解体される予定だった旧研究棟は工事業者が見つからず未だに取り残されている。旧研究棟跡地に建設予定の展示資料館「海の勉強室」も開設時期は未定だ。

 

新研究棟3階からは、ひょっこりひょうたん島のモデルともいわれる「蓬莱島」と赤い灯台も見える。道路や住居の整備は少しずつ進んでいるが、震災当時のまま残されている建物もある

 

 「国際的な研究拠点となるだけでなく、センターから大槌を活性化させることで復興の手助けをしていきたい」と語っていたセンター長の河村知彦教授。今後センターが地域住民にとって一つの希望であり続けるために、新施設整備が前進するための方法を探る必要がある。

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