COLUMN 2019年10月21日

【NEW GENERATION】 神経科学 石川理絵助教

興味分野に熱心にコツコツと

 

石川 理絵(いしかわ りえ)助教(農学生命科学研究科)15年東京農業大学大学院博士課程修了。博士(バイオサイエンス)。東京農業大学博士 研究員を経て、19年より現職。

 

 PTSD(心的外傷後ストレス障害)という病名は誰もが聞いたことがあるだろう。この障害による恐怖記憶を脳が克服し制御する仕組みを神経科学の観点から研究してきた石川理絵助教(農学生命科学研究科)は、この8月から農学生命化学研究科栄養化学研究室に配属されたばかり。アルツハイマー病の治療薬として知られるメマンチンの投与や身体運動によって海馬の神経細胞を増やすと、恐怖記憶が薄れることを解明した。現在は、恐怖を感じた脳と安全学習により恐怖を克服した脳を比較し、脳が記憶を制御するメカニズムの解明を目指す。比較の際には、マウスの脳の断面上でタンパク質が検出される領域の違いを比べるという手法を用いている。

 

マウスの学習前後の脳スライスを作成し、脳の状態を比較する。学習後の脳から、より多くのタンパク質が検出されているのが分かる。将来的には脳が記憶を制御するメカニズムの解明への貢献を目指す(図は石川助教提供)

 

 「中学生のときから生き物に興味があって、生物の授業が一番楽しいと思っていました」と石川助教。高校では生物を選択した。生体内のシステムを知りたいと思い、東邦大学理学部生物学科に進学。卒業研究では動物生態学を専攻し、チョウに関するフィールドワークを行っていた。当時は研究者になろうという考えはなく、早く働いてお金を得ようと就職活動を行い、環境システム系の企業から内定をもらっていた。だが卒業研究を通して、自分で決めたテーマを自分で研究する楽しさを知り、大学院に進学することを決めた。生体内のシステムを研究できる研究室を探していたところ、見つけたのが東京農業大学で神経科学を専門とする研究室だった。「医学部じゃないのに神経科学の研究ができるのは面白そうだと思い、その研究室に決めました」

 

 大学院に進学すると、学部時代からは一転し現在のように実験室内で研究するようになった。フィールドワークより自分には向いていると感じたが、チョウの研究を通して知った、研究を楽しむ気持ちは学部時代から変わっていないという。

 

 動物生態学と神経科学は全く違う分野だが、研究室のメンバーや指導教員の支えがあり、困ることはなかった。「研究室に見学に来た学生の中にはこれまで植物の研究をしていた人もいます。私も昆虫を扱っていましたから分野が変わることについて気にしすぎる必要はないですね」

 

 修士課程の時、博士課程に進むか企業で研究するか迷い、企業の説明会に行った。しかし自由に研究できるのは大学ならではであることを痛感し博士課程に進むことを決めたという。

 

 博士課程修了後、約1年間は何をやってもうまくいかず、研究者として生きていくと決めた矢先のことで、気がめいってしまった。石川助教は「修行期間を乗り越えたら大きな成果が出そうな気がするという期待がモチベーションになっていました」と振り返る。ようやく論文として研究内容がまとまった時は達成感があった。海外の学会で「君の論文読んだよ」と声を掛けてもらい世界中に向けて情報が発信できたと実感したという。

 

 今後は栄養化学研究室という環境を生かして、食行動を決定する脳の記憶制御のメカニズムを解明したいと話す。食べ物の好き嫌い、飽きや依存といった食行動は過去の食経験が関与していると石川助教は考えている。脳が過去の記憶をどのように行動に反映させるのかを探る。

 

 石川助教は、研究に限らず興味があることに熱心にコツコツ取り組む姿勢を大切にしている。「私の周りにいる研究者は年を重ねても少年少女のような目をされています。研究者を志す学生さんは夢を追い続ける気持ちを忘れないでください」

(鏡有沙)


この記事は2019年10月8日号から転載したものです。本紙では他にもオリジナルの記事を公開しています。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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